概要
外資企業がタイで事業を行う場合、確実に理解しておかなければならない法律が「外国人事業法」です。
この法律によって各企業は現在の株主構成、資本構成、業態になっています。
「外国人事業法と会社の構 造の理解」は前任者から後任者への重要な引き継ぎ事項の一つです。
正しく引き継がれていない会社はい つの間にか違法状態になっていることが多いのです。
今月から数回にわたり「外国人事業法」を解説します。
私は以前から、日系企業ないし外資企業がタイで事業を行うに当たり、まず確実に理解しておかなけれ
ばならない最重要の法律は、外国人事業法(FOREIGN BUSINESS ACT B.E.2542(1999))だと説明して
います。
この法律があることによって各企業は現在の株主構成、資本構成、業態になっています。
そして、外国人事業法とタイの現地法人がなぜ現在、その資本構成、株主構成になっているのかということは、
前任者から後任者に必ず引き継がなければならない事項であると思っています。
外国人事業法は、外資企業にとって、よく理解しておかなければ容易に違法状態に陥ることになりかね
ない落とし穴のような法律です。
今回から数回にわたり、ぜひ理解してほしい外国人事業法について解説します。
1. 外国人事業法とは?
「外国人事業法は『外国人』が行ってはならない『規制事業』を規定している」
これが外国人事業法の定義です。押さえなければならないポイントは、以下の 2 点です。
(1) 外国人事業法において「外国人」とは何か。
(2)「外国人」が行ってはならない「規制事業」とはどのような事業か。
2. 外国人事業法上の「外国人」とは?
外国人事業法上の「外国人」は、一般的に「タイ人」「外国人」といわれる「タイ国籍法」(以下、
国籍法)上の外国人とはその範囲が異なります。
外国人事業法は、タイの地場産業を外資から守るために制定された法律ですから、
国籍法上の外国人だけでなく、資本の半分以上が外資の法人も外国人に含めています。
タイの法律に基づいて設立された法人は、国籍法上は外資の多寡に関係なく「タイ人」ですが、
外国人事業法上、資本の半分以上が外資の法人は、たとえタイの法律に基づき設立された法人であっても
「外国人」として取り扱われます。
外国人事業法上の「外国人」の定義はおおむね以下の通りです。
(1) タイ国籍を有しない個人
(2) 外国の法律で設立された法人
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(3) 資本の半分以上を(1)または(2)が所有するタイの法律で設立された法人
(4) 資本の半分以上を(1)または(2)または(3)が所有するタイの法律で設立された法人
つまり、「資本の半分以上が外資の会社は外国人事業法上の外国人である」と理解すればいいと思います。
3. 「外国人」が行ってはならない「規制事業」とは?
外国人事業法は、外国人が行ってはならない規制事業を以下のリスト 1、2 および 3 に分類して列挙し
ています。
(リスト 1)
外国人が従事することが絶対に認められない事業であり、農林水産業、骨董(こっとう)品売買、不動
産売買など 9 種類の事業がリストアップされている。
(リスト 2)
国家の安全保障、タイの伝統的芸術・文化・自然環境を守るために内閣の承認の下、商務大臣から許可
を取得しない限り外国人が従事することができない事業であり、武器製造、タイ美術・民芸品製造、タイ
シルク製造、製糖業、製塩業など 13 種類の事業がリストアップされている。現行の外国人事業法が 1999
年に制定されてから今日まで内閣の承認を受け、商務大臣から許可を取得した例がないため、実質的に門
戸が閉ざされた事業である。
(リスト 3)
外国人との競争力がまだ不十分なために保護される事業で、競争力が認識された後に外国人に開放され
るべき事業であり、商品の小売業、卸売業、各種サービス業など 21 種類の事業がリストアップされてい る。
リスト 3 の事業は、外国人事業委員会の承認に基づき、商務省事業開発局長から許可を取得した場合、
外国人でも事業に従事できる。
以上が外国人事業法において外国人が従事してはならない規制事業であるが、ここで理解しなければな
らないのは、リスト 1、2、3 の具体的内容ではなく、これらのリストにない事業、すなわち「外国人が従
事できる事業とは何か」ということです。
規制事業にリストアップされていない事業は法律に記載されて
いない事業であるため、タイの外資規制の過去の歴史を知らないとその事業に従事できるか否かの答えが
出ません。
答えだけを言うと、外国人が従事できる事業は、以下の二つの事業だけです。
(1) リスト 1、2、3 に含まれない工業製品の製造販売
(2) 各種商品の輸出
1999 年に制定された現行の外国人事業法以前は外資規制の基本法として「革命団布告第 281 号」(通
称「仏歴 2515 年外国人事業規制法」)が存在しており、薬の製造販売、電球の製造販売、文房具製造販
売など特定製品の製造販売だけでなく商品の輸出が規制事業にリストアップされていました。
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1999 年制定の外国人事業法の規制事業リストからは、多くの工業製品の製造販売が消えるとともに、
各種商品の輸出が削除されました。
これによって、日系企業が取り扱うほとんどの製品の製造販売が「外国人でも従事できる製品の製造販売」となり、
各種商品の輸出も外国人が従事できる事業となりました。
「外国人でもできるのは製品の製造販売と商品の輸出だけであり、その他の事業は一切禁じられてい
る」これが外国人事業法の原則です。
「その他の事業」とは以下のように理解してください。
(1) 商品売買(「商品」とは他者が製造した物品)
(2) あらゆるサービスの提供
「資本の半分以上が外資の会社(外国人)は、タイ国内で商品売買またはサービス提供を行うことが
禁じられている」これも外国人事業法の原則です。
4. 「例外」に関する解説
外国人事業法は、外資企業がタイに進出する場合に、最初に理解しなければならない外資規制に関する
法律です。
外国人事業法においては、資本の半分以上が外資の会社は「外国人」と定義付けられ、原則的
にタイ国内で一切の商業(商品売買)とサービスに従事することが禁じられます。
ところが、この外国人事業法には「例外」が組み込まれています。外国人のままで商業またはサービス
を行いたい場合には、それらの例外を適用するしかありません。
例外を適用してもできない事業がある場合には、いやが上にも外国人としての事業を諦め、
資本の過半数をタイ資本として事業を行うしかありません。
例外を適用できるかどうかが外国人(外資)ステータスを維持できるか否かの分かれ道なのです。
外国人事業法で規定される例外
外国人事業法には、以下の例外が組み込まれています。
外国人事業法上の例外
1. 規制業種「リスト 3」に組み込まれた例外
2. 第 8 条に基づく外国人事業許可
3. 投資奨励法に基づくタイ投資委員会(BOARD OF INVESTMENT:BOI)奨励事業(第 12 条)
4. 工業団地公団法に基づく認可事業(第 12 条)
5. 条約などに基づく規制の解除(第 10 条)
これら五つのタイプの例外について、それぞれ解説したいと思います。
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(1) 規制業種「リスト 3」に組み込まれた例外
外国人事業法に添付される「リスト 3」に記載されている業種は「外国人事業委員会の承認に基
づき、商務省事業開発局長から許可を取得した場合、外国人でも事業に従事できる業種」です。
この「リスト 3」を見ると「業種名」だけでなく「取引形態」や「規模」についての記述がある
ことに気付きます。
リスト 3 には「取引形態」や「規模」によっては規制業種から除外される以下
のような業種があります(抜粋、要約)。
@ 資本 5 億バーツ以上を伴う高い技術力を要する公共施設、輸送手段の建設
A 証券発行、物品・金融商品・証券の先物取引に関する仲介代理
B 製造またはサービス提供のために必要な関係会社間で行う物品売買、サービスの仲介代理
C 資本 1 億バーツ以上を伴う国際取引に関する仲介代理
D 資本 1 億バーツ以上を伴う物品の小売り
E 資本 1 億バーツ以上を伴う物品の卸売り
(注)「1 億バーツ以上の資本を伴う」と記載されている各事業については、それぞれの事業に
1 億バーツ以上の資本を有していることが要求され、1 億バーツの資本があれば、三つの
例外を適用できるわけではないことに注意してください。
ここで「資本」に関する説明を補足します。
上記の「資本」とは、外国人事業法では「最低資本」(MINIMUM CAPITAL)と規定されており、
以下の意味や解釈が付されています。
「最低資本とは、外国人がタイ法人の場合、その法人の資本、外国人が外国法人である場合、
その法人がタイに持ち込んだ外貨を指す。
また、資本とは、非公開株式会社の場合、その会社の登記
資本、公開株式会社の場合、その会社の払込資本を指す」
この規定に関して、以下の二つの解釈の変遷がありました。
@ 外国人事業法が施行された 1999 年においては「非公開株式会社の場合、登記資本が 1 億バー
ツ、払込資本がその 25%以上であれば『1 億バーツ以上の資本』の例外が適用できる」という
解釈でしたが、現在は「非公開株式会社の場合も払込資本を 1 億バーツ以上有している場合に
『1 億バーツ以上の資本』の例外が適用できる」という解釈に変わっています。
A 外国人事業法が施行された 1999 年においては「どのような目的で投下された資本であっても、
1 億バーツの資本が登記されていれば『1 億バーツ以上の資本』の例外が適用できる」という
解釈でしたが、現在は「外国人事業法または他の法律で要求される資本を除いた資本が 1 億バ
ーツ投下されていないと『1 億バーツ以上の資本』の例外が適用できない」という解釈に変わ
っています。
現在の解釈に従えば、例えば、BOI の奨励事業のために 3 億バーツの資本を投下
している場合、その 3 億バーツの資本によって『1 億バーツ以上の資本』の例外は適用できず、
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新たに 1 億バーツ以上の資本を投下しない限り例外は適用できません。
(2) 第 8 条に基づく外国人事業許可
前述の通り、外国人事業法に添付される「リスト 3」に記載されている業種は「外国人事業委員
会の承認に基づき、商務省事業開発局長から許可を取得した場合、外国人でも事業に従事できる業
種」であり、同法第 8 条に基づき、商務省事業開発局長から許可(外国人事業許可:FOREIGN
BUSINESS LICENSE:FBL)を取得した事業については、外国人のステータスのままで従事するこ
とが認められます。
外国人事業許可は、関係会社間取引に限定される場合など、内国産業に悪影響を与えないことが
明らかな事業について取得できます。
(3) 投資奨励法に基づく BOI 奨励事業(第 12 条)
投資奨励法に基づき設置されている BOI から奨励事業に関して奨励を認可された場合、たとえ
その奨励事業が外国人事業法上の規制業種に該当する場合でも、その規制が解除され、外国人で
もその事業に従事することができます。ただし、BOI から認可を受けて規制事業に従事する場合
には、外国人事業法第 12 条に基づき、外国人事業登録手続きを行う必要があります。
(4) 工業団地公団法に基づく認可事業(第 12 条)
工業団地法に基づき設置されている工業団地公団(INDUSTRIAL ESTATE AUTHORITY OF
THAILAND:IEAT)は、工業団地内の土地に関して外国人の所有を許可する権限、および、工業
団地の土地を所有し、輸出に関わる事業あるいは商取引を行うことについて認可する権限が与え
られています。
工業団地公団から輸出に関わる事業あるいは商取引を行うことについて認可を得た場合には、外
国人であってもその事業や商取引に従事することが認められます。
ただし、工業団地公団から認可を受けて規制事業に従事する場合には、外国人事業法第 12 条に基づき
、
外国人事業登録手続きを行う必要があります。
(5) 条約などに基づく規制の解除(第 10 条)
政府プロジェクトなどの場合、タイ政府は臨時的に外国人が規制事業を行うことについて許可す
ることがあります。
また、自由貿易協定(FREE TRADE AGREEMENT:FTA)などの条約によって
外国人事業法上の規制が解除されるケースがあります。
外国人事業法第 10 条には、条約で外国人が規制事業に従事することが認められている場合には、
当該条約に従う旨が規定されています。
記事提供:MOTHER BRAIN(Thailand)CO,LTD.
(2014 年 11 月 3 日/2014 年 12 月 1 日作成)
タイの外国資本規制
―外国人事業法の概略と最近の動向
KPMG 藤井康秀
https://www.asean.or.jp/en/invest/about/eventreports/2013/2013-03.html/4_Mr.%20Yasuhide%20Fujii-KPMG.pdf/at_download/file