タイ民タイ民商法典改正と保証人保護 (その2)

5 「保証の消滅」

 第698条は、債務の消滅による保証責任の消滅についての規定である。
保証契 約は、主たる債務者が債務を履行しない場合に、代わりに保証人が履行するこ とを約する契約であるから、主たる債務が消滅した場合には、消滅の付従性か ら、当然保証債務も消滅する。債務が消滅する原因としては、弁済、免除、相 殺、更改、混同等がある。  
タイで問題とされているのは、債権者と債務者間に和解契約が締結された場  タイ民商法典改正と保証人保護(西澤) 合、この和解契約に基づいて発生した債務を旧来の保証契約は担保するのか否 かである。
和解契約の効果は民商法典上では第852条に規定されているが、それ によると旧契約上の請求権は消滅し、新しい和解契約に基づいて権利義務が発 生することとなる。
和解契約に基づく主たる債務者の債務は保証契約が担保し たものではないので、保証契約の効果が新しい債務にまで及ぶか否かであるが、 この点については、裁判外での和解と裁判上の和解分けて考えられている(ปัญญา [2013]184)。  
裁判外の和解においては、和解契約の締結により旧債務は消滅し、新たに和 解契約に基づく債務が発生し、それは保証契約が担保していたものとは異なる として、保証契約の対象とはならないとしている(最判仏暦2538年6343号事件、 最判仏暦2546年5480号事件。)。  
しかし裁判上の和解についての最高裁の判断は異なっている(ปัญญา[2013] 186)。当初最高裁は、裁判上での和解は、民商法典第850条に基づく和解契約で はないと考えていた。
その理由として、債権者が訴訟を提起するのは、債務者 に弁済を強制させるためであり、債務者と債権者が民事訴訟法典第138条に基づ き訴訟上の和解をすることは、債権者が請求した債務の弁済を達成するためで ある。
その意味で、裁判上の和解をすることは裁判所による判決を得るためで あり、旧債務を消滅させ、新債務を発生させることが目的ではなく、以前より も確実に旧債務を履行させるための手段であるので、旧債務は消滅することは ないと判断した(最判仏暦2517年1007号事件、最判仏暦2523年957号事件、最判 仏暦2546年10205号事件)。  
しかしながら、近年の最高裁判決においては旧債務が消滅し、保証契約は及 ばないと異なる判断をしているものがある(最判仏暦2550年1732号事件、最判 仏暦2551年6479号事件)。
判断変更が行われているが、大法廷での判決ではない ので、異なる考え方が併存している状態である。

もう一つ注目すべき最高裁判決が存在する。それは、相続人と保証人双方に 対して債務の弁済を求めた事件で、最高裁は相続人に対する請求を消滅時効が  政策創造研究 第 9 号(2015年 3 月) 成立するとして認めなかったのに対して、保証人に対する請求は、契約におい て時効援用をしないという特約は公序良俗に違反せずに有効であるとして、保 証人に対する請求を認めた(最判仏暦2544年9467号事件)。

この判決中では、第 698条と第681条 3 項(取り消し得べき行為が取り消された場合の保証債務の存 続)を取り上げ、第698条は例外が認められており、絶対ではないとして、相続 した主たる債務が消滅しながらも、保証債務は存続しうると判断している。  

第699条は、期間の定めのない継続保証における解除についての規定である。
期間の定めなく、長期間に亘って保証人に責任を負わせることは、保証人に過 大な負担を負わせることとなる。
そこで、期間の定めのない場合は、保証人は いつでも解除することができ、解除の効果は遡及しないとした。
同条に基づく 解除権が発生するためには、

第一に、継続的に複数回債務が将来において発生 することである。
この意味するところは、債務発生の原因が複数回なければな らないので、単一の原因では認められない。
そのため、たとえばハイヤー・パ ーチェース契約に関する保証は、たとえ将来において債務の弁済をしなければ ならないとしても、当初から決定していることであり、単一の原因によってい るので、解除は認められない。

第二に、期間の定めがないことである。解除の 効果は、将来に向かってのみであり、遡及効は認められない。
また、この条文 は、公序良俗に関する事項ではないため、特約で適用の除外をすることができ ると考えられている(สุดา และ ภารวีร์[2013]101、ปัญญา[2013]194)。
 
第700条は、期間の定めのある債務の期間が延長された場合の保証契約に関す る規定である。
保証人は自己が保証する債務に期限の定めがあれば、いつから その責任が開始し、利息等が付されている金銭債務についての保証であれば、 利息がどの程度になるかも計算することができる。

しかし、保証人の知らない ところで期限が延長された場合は、利息支払いが増えると共に、保証人の財産 が散逸する可能性が高まり、求償権を行使できない可能性も出てくる。
そこで、 第700条は、期間の定めのある債務について、債権者と債務者が合意して期間を 延長した場合には、保証人は保証責任を免れるとした(同条第 1 項)。
ただし、 33 タイ民商法典改正と保証人保護(西澤) 保証人が期間の延長に同意した場合には、引き続き保証責任を負うとした(同 条第 2 項)。
第700条の規定も公序良俗に関する規定ではないので、適用除外の 特約が認められる(最判仏暦2503年1371号事件)。

第701条は債権者による受領拒否に関する規定である。
保証人としては、自 己の債務の範囲をなるべく少なく為には、保証債務の履行期が到来後すぐに履 行することが要求される。

その際、債権者により受領拒絶された場合には、一 層時間が経過し、利息支払いが増えると共に、求償権の行使が困難になる可能 性も増えてくる。
そこで、同条は、第 1 項において、主たる債務の履行期到来 後は、保証人は債務を履行できるとすることを確認すると共に、第 2 項におい て、受領拒絶をした場合は、保証人は
保証責任を免れるとして、債権者による 受領拒絶を禁止した。
受領拒絶と認定されるのは、保証人が主たる債務の原因・ 目的に従った形式で履行しているか、または保証契約に基づいて適切に履行さ れたのもかかわらず債権者が受領しなかった場合であり(สุดา และ ภารวีร์[2013] 113)、保証人が全部履行しない、または履行場所が異なっている場合には、債 権者は受領を拒絶することができる(สุดา และ ภารวีร์[2013]114)。  
第 4 節に規定はないが、その他保証債務が消滅する場合がある。
既述の通り、 債権者の行為を原因とする代位権行使侵害の場合(第697条)、保証債務自身が 時効消滅する場合であるが、特徴的なのは保証人の死亡である。

この場合、保 証債務履行期前に保証人が死亡した場合と、履行期後に死亡した場合の二つに 分けて考える必要がある(สุดา และ ภารวีร์[2013]117、ปิติกุล[2012] 119)。ま ず、保証債務履行期前、つまり債務者の債務不履行前に保証人が死亡した場合 は、保証債務の相続は生じない。

これは、保証契約は保証人自身を信用して契 約した人的側面が重視される契約であるからである。
しかし、保証債務履行期 後に死亡した場合は、その保証債務は相続され、消滅しない。

  1. 小活  

民商法典の規定自体は、保証債務を従たる債務としての性格を有することを 政策創造研究 第 9 号(2015年 3 月) 前提として規定している。
しかしながら、そのような性格を有する規定は、債 権者にとっては、債権回収の障害となるので、それらの適用をなるべく除外し たいと考え、それを達成するために、様々な特約を締結している。
この特約に ついて、裁判所は、公序良俗に反しないとして承認している。そのため、従た る債務の担い手であるはずの保証人が、主たる債務者と同等、またはそれ以上 の負担を強いられる状態になっている。

タイでは、日本民法第448条に相当する 規定は存在していないが、従たる債務の性質上、原則として、主たる債務の内 容より重い内容は負担しない。

しかし、主たる債務の時効に関する事件におい て、主たる債務者の時効援用が認められ債務が消滅したにもかかわらず、保証 契約における特約に基づき、保証債務が消滅しないとするのは、内容の付従性 の原則に反する結果となっている。
「契約自由の原則」の価値を重視した法解釈 が見られる分野として非常に興味深い。保証人に対して大きな負担を強いてい る現状を解決するために、民商法典の改正法が成立するわけであるが、問題解 決のための主要な方法が特約の禁止である。
次章では、2014年に成立した、民 商法典の改正法の中で、保証に関する改正の内容を概観していく。

Ⅱ 民法典改正法の目的とその内容  

これまで見てきたように、民商法典に定められている保証制度は、基本的な 制度は備えながらも、特約により規定の適用が除外され、債権者にとって非常 に有利な状態となっており、保証人は、従たる債務を履行する者と言うよりも、 場合によっては主たる債務者よりも負担が重くなることもある。

そこで、この ような状態を改善するための改正法が2014年11月13日に公布された。この改正 法では、保証だけでなく、抵当権に関しても改正が同時に行われているが、本 稿では保証に関係する条文だけを検討する。

改正法は、正式には、「仏暦2557年民商法法典増補改正に関する法律(第20 版)」である。全24条からなっており、施行は公布後90日後の2015年 2 月12日か 35 タイ民商法典改正と保証人保護(西澤) らである(第 2 条)。

保証制度に関する具体的な改正は、第 3 条から第 8 条までに規定されている。

第 3 条は、被担保債権に関する第681条を改正するものである。
同条の改正理由 として、ビジネスの現状に合わせるためであるとともに、実務上、債権者の多 くは、自己に関して生じるすべての債権を担保するための手段として悪用して いたからとする。
その方法は、将来発生するすべての種類の債権について保証 するといった内容であり、それは不公正であると考えられたからである。
また、 同条は、抵当権においても準用される条文であったため、改正されることとな った(สำ นักงานเลขาธิงานวุฒิสภา[2014]14)。
旧681条 1 項および 3 項(新法では 4 項)はそのまま引き継ぎ、旧 2 項を改正した。新 2 項は、将来債務と条件付 債務を保証債務の目的とすることができるとするが、その際、担保する債権の 種類、極度額、保証期間を明示することが要求された。
また、新 3 項において は、契約において明示されて特定されている債務のみ、対象となることが明記 された。

第 4 条は、第681条の 1 を新設する規定である。
旧第691条は、保証人が主た る債務者と連帯して責任を負う場合には、第698条から第690条で定められてい る各種の抗弁権が利用できないことを規定するのであるが、実際は債権者は自己の経済的優位を利用して、契約中に連帯保証の特約を入れ、その結果はあたか も連帯債務者となるかのようなものであり、それは保証人を主たる、第一段階 の債務者とするようなものであり、不公正であるとする(สำ นักงานเลขาธิงานวุฒิสภา [2014]15)。
そこで、第681条の 1 では、連帯保証を禁止することとした。

その 手法は、「連帯して債務者と同様に責任を負う」場合と「連帯債務者の地位とな る」とする特約を無効とすることによっている。
前者は連帯保証人を想定して おり、後者は連帯債務者を想定しているのであるが、後者は、既述した最判仏 暦2550年6087号事件を考慮して、連帯債務者として責任を負わされることがな いように規定したと思われる。
この規定は、保証人が法人であれ、個人であれ、 どちらにおいても適用される。 36 政策創造研究 第 9 号(2015年 3 月)

第 5 条は、第685条の 1 を新設し、特約の無効、すなわち強行法規に関する規 定である。
タイの特徴としてすでに述べたように、特約が広範に認められてい る。
債権者は保証人に法律の規定以上の負担を負わせるように特約を用いるた め、その特約を無効にすることを目的とする規定である(สำ นักงานเลขาธิงานวุฒิสภา [2014]15)。強行法規とされたのは、第681条第 1 項、第 2 項、第 3 項、第694 条(抗弁権の援用)、第698条(保証債務の消滅)、第699条(期限の定めのない 保証)である。第681条第 1 項および第698条の規定について特約を認めないこ とにより、保証人が主たる債務者よりも負担が重くなることを防止し、また第 681条第 2 項、第 3 項および第699条について禁止することにより、長期間にわ たる、極度額の定めのない包括根保証を設定することを禁じ、保証人に対して 過大な負担を課すことを防止している。  

第 6 条は、第686条を改正する規定である。保証債務の履行期は債務者による 債務不履行時から始まるが、実際上それを知る手続は存在しない。
また、債権 者は債務不履行が生じたとしても、直ちに保証人に請求することはなく、利息、 遅延損害金、その他負担の金額が増加するのを待って請求するのであり、これ は不公正であると考えられる。
もし、債務者が債務不履行になった情報があれ ば、利息等の増加を防ぐために直ちに債務者に代わって弁済をする機会を得ら れることができるようにするため改正が行われた(สำ นักงานเลขาธิงานวุฒิสภา[2014] 16)。
新第686条では、債権者に通知義務を課し、債務者が債務不履行となった 時から60日以内にその旨を保証人に通知しなければならないとした(同条第 1 項)。
かかる通知が所定の期間内に行われない場合は、保証人は、利息、遅延損 害金、その他負担について、60日経過後の分については責任を負わないとした (同条第 2 項)。

さらに、第 1 項に基づき、債権者が保証人に請求し、または保 証人が保証債務の弁済権を行使するときは、保証人は、保証債務を全部または 債務不履行前の条件および弁済方法にしたがって弁済することができる(第 3 項前段)。
その際、受領拒絶に関する規定である第701条第 2 項を準用して(同 項後段)、債権者が受領を拒絶した場合には、保証人は保証責任から免れるとし 37 タイ民商法典改正と保証人保護(西澤) た。
保証人が第 3 項に従って、債務不履行前の条件および弁済方法に従って弁 済した場合、その期間内は、債務者の債務不履行を理由とした増加利息を請求 することはできない(第 4 項)。
同条に基づいて弁済を行ったとしても、第693 条に定められた保証人の権利、すなわち求償権と代位権については影響しない とする(第 5 項)。

第 7 条は、連帯保証を定めていた691条が廃止されたので、その位置に、債務 が縮減された場合における内容の付従性についての規定を新設している。
それ は、債務額が減額された場合には、保証債務も同様に縮減するという、減額の 場合の内容の付従性について明示的に規定している。
これは、実務において、 金銭債務が対象となる場合に、債権者は債務者の負担を軽減することがあるが、 それが保証人には知らされず行われ、その債務の縮減が保証債務の縮減につな がっていないことがあるので、減額された分を弁済すれば、保証債務が消滅す るようにするために規定である(สำ นักงานเลขาธิงานวุฒิสภา[2014]17)。そこで、 第 1 項では、債務が縮減された場合は、その縮減された額を弁済すれば、保証 債務は消滅するとし、第 1 項に定められている負担よりも多くの負担を保証人 に課す特約は無効であるとした(第 2 項)。  

第 8 条は、第700条を改正する規定である。改正理由は、債権者は自己の経済 的優位を利用して、期間の延長に伴う負担を保証人が負う旨の特約を締結させ、 不公正であるからとする(สำ นักงานเลขาธิงานวุฒิสภา[2014]17)。
そこで、新第 700条第 1 項は、期限の定めのある債務の履行期を債権者と債務者が合意して延 長する場合、保証人の同意がない限り、保証人は保証責任から免れるとした。 さらに、第 2 項において、期間延長に関わる事前同意を内容とする特約を執行 できないとした。
旧来の保証制度は、債権者が経済的優位を利用する形で、保証人に対して各 種の特約を認めさせ、保証人を主たる債務者と同等またはそれ以上の負担を負 わせており、内容の付従性の観点から見ても問題のある制度であった。
そのよ うな制度を実現しているのが特約であり、それを裁判所が承認していることが 38 政策創造研究 第 9 号(2015年 3 月) 原因である。

そこで、改正法の主眼は、かかる特約の効力を認めないことによ り、保証人を本来の性質である、従たる債務を担う者としての地位に戻し、保 証人を保護することにある。その中で注目すべきは、連帯保証の無効化である。
これは、保証人が自然人であろうが、法人であろうが関係なく適用されるもの である。保証人を主たる債務者と同列にするこの連帯保証の制度を認めないこ とは、この改正法の目的を端的にあらわしていると思われ、また非常に大胆な 方策である。
特約の無効を規定することにより、保証人の保護を図っている改正法である が、改正法によっても取り扱われていない論点がある。
それは、第697条に定め られた債権者の行為により、保証人の代位権行使が侵害され場合の規定である。 この条文についても特約による適用除外が認められており、たとえ債権者の責 任により、代位権行使が侵害されたとしても、保証人は保証債務を完全に履行 しなければならず、保証人の保護が図られていないといえる。
この点について の対応がなされていない理由は不明である。

おわりに  

今回の保証制度の改正について、タイの銀行業界からは保証人保護を図る法 改正として評価する面もあるが、改正すべき点もあるといった声が聞かれる。

たとえば、タイ銀行業界会長のブンタック・ワンチャルンは、連帯保証を禁止 したことについて、商業銀行や政府による連帯保証までが禁止され、今後の大 規模プロジェクトに影響がでることを懸念している。また、履行期の延長につ いても、保証人に同意をとることは債務者の再建計画を定立する上での障害に なるとし、本条についてはタイ中央銀行に対して改正を求めるとしている(ไทยรัฐ [2014])。  

このように施行以前の段階から、改正法に対する修正が噴出している。
この 批判に応える形で、現在国家立法議会で改正法が審議中である。その主たる対  象は法人保証の復活である。  
しかしながら、問題点を孕みながらも、旧来の保証制度の問題点を是正する、 この改正法が通過したのも、クーデター後の緊急時であり、かつ一院制の国家 立法議会に元であった可能性は非常に高いと思われる。

ある意味、間隙を突い た中での立法でなければ、これまでの最高裁の判断を否定する改正法は通過し なかったかも知れない。
いずれにせよ、この改革はまだ途上である様相を示しているので、今後の推 移を注意する必要がある。 (2015年 2 月22日脱稿)

(出典:http://kuir.jm.kansai-u.ac.jp/dspace/bitstream/10112/8967/1/KU-1100-20150331-04.pdf