2.株式に関する規定
以下、民商法典の条文により項目別に説明するが括弧内は民商法典の条項である。
株式は日本と異なり全て額面株で、無額面株はない。額面は最低5パーツであり(1117条)、通常は百バ−ツ、千バーツが多い。額面以下での発行は禁止
されている(1105条)。
種類としては、普通株と優先株、記名式と無記名式がある。
額面以上での発行は、基本定款に定められている場合は可能であるが、超過額は最初の払込と同時に行わなければならない(1105の2条)。
又、超過額は準備金に繰り入れなければならない。
設立時には、各株式について25%以上払い込めばいいが、残りについては、総会において別段の定めがない限り、取締役が何時でも請求できる。
その請求は21日前に書留郵便で請求しなければならない。払い込みがない場合、株主は、
(1)払込むまでの期間、利息を支払わなければならない。
(2)株券を没収されることがある。
(3)譲渡の登記を会社は拒否することができる。
株券の記載事項は以下の通りで、取締役の少なくとも一人の署名、社印が必要である(1128条)。
(1)会社名
(2)番号
(3)1株の額面価額
(4)全額を払い込んでいないときは、1株当たりの払込済み金額
(5)記名式のときは株主名、又は無記名式である旨
無記名株券は付属定款に定めがあり、かつ、全額払い込んだ場合に限り発行できる(1134条)。
取締役が株主であることを付属定款で要求する場合、その株券は記名式でなければならない(1137条)。
株式の譲渡は無記名式は自由。
記名式も自由であるが、付属定款によって制限することができる(1129条、合弁の場合はよく知らない者に譲渡されると困るので、付属定款に譲渡制限を
設けるのが普通である)。
その他、法律で譲渡制限している株式は以下の通りである(記名式の場合)。
(1)100%払い込まれていない株式(会社は譲渡の登記を拒否できる)(1130条)
(2)株主総会前15日間の株主名簿閉鎖期間(1131条)
(3)他の法律でタイ国籍者が一定の割合を保有しなければならないとき
自社株の保有、質受けは禁止されている(1143条)。
株主名簿は、会社登記のときから本店に備え付け、毎年少なくとも1回総会の日から14日以内に写しを登記官に提出する必要がある(1139条)。
株主名簿の記載事項は次の通り(1138条)。
(1)氏名、住所、職業、持ち株数、株式番号、払込額
(2)登記の年月日
(3)登記抹消の年月日
(4)発行された株券の数、日付、各株券の株式数
(5)記名式、無記名式でなくなった日付
以上株式に関する規定を見てきたが、合弁の場合株式の譲渡制限を設ける必要があること等勘案すると、記名式、普通株が一番無難であろう。
ただし、死亡による相続には対抗できないと思われる。
3.株主数、株主の稚利、義務
株主の数は3名以上である。1237条で7名を下回ったとき、裁判所は解散を命ずることができる。
1237条は2008年3月3日の官報で改正が公布され、公布の日から120日を経過した日から3名を下回るときに解散を命ずることができることとなり、株主数は
3名以上であればいいことになった。
株主の権利としては、全ての総会に出席(他人に委任することもできる)ことができる(1176、1187条)。
又、総株式数の5分の1以上を代表する株主は、共同して取締役に臨時総会を招集するよう請求できるほか、30日以内に開催されない場合、5分の1を代表する
株主が自ら招集できる(1173、1174条)。
法又は付属定款に違反した総会決議を裁判所へ申請することにより無効とすることができる。
ただし、申請は決議の日から1ケ月以内にすること(1195)。
取締役が会社に損害を与え、会社が損害賠償を要求しないとき、株主は誰でも賠償を要求できる(1169条)。
一方、株主は額面まで、取締役の請求により払い込む義務があるが(1106条)、そこまでの有限責任であり、会社の債務には責任を負う必要はない。
4.株主総会
会社登記の日から6ケ月以内に開催しなければならないので、初年度は注意すること(1171条)。
その後は、毎年少なくとも1回開催しなければならない(1171条)。
これは通常総会と呼ばれる。通常総会は会計年度終了後、財務諸表の承認(1197、1214条)、営業報告(1198条)、取締役、会計監査人の選任、交替(1151、1152、
1209条)のため開催されるのが一般的で、この場合、1197条の規定により会計年度終了の日から4ケ月以内に会計監査人の監査報告を付して総会で報告
しなければならない。
総会は、取締役によって招集されるが、その他緊急の場合の外、次の場合は臨時総会を開催しなければならない。
(1)取締役会が必要と認めたとき(1172条1項)
(2)欠損金が資本の半分に達したとき、取締役は直ちに総会を召集、開催しなければならない(1172条2項)。
(3)株式総数の5分の1以上を代表する株主から請求があったとき(1173条)
(4)会計監査人に欠員が生じたとき(1211条)
招集方法は、少なくとも7日前に当該地方の新聞に1回以上公告し、かつ、少なくとも7日前に郵送の方法による(1175条)。
総会は会社資本の4分の1を代表する株主の出席をもって定足数とするが(委任出席も可能1178条)、付属定款で50%、60%と法律より厳しくすることは可能である。
総会に出席する権利のある者は株主全部及び株主から委任を受けた者であるが、次の者は議決権がない。
(1)取締役から請求された株式金額を払い込んでいない者(1184条)
(2)決議事項に特別の利害関係を有する者(1185条)
(3)付属定款で特に定めている者(付属定款で一定数以上の株式を保有しなければ投票権なしと定めることができる。
ただし、共同で代理人を任命、投票することはできる(1183条)
(4)無記名株券の所有者、ただし総会前に株券を会社に預託した場合は権利あり(1186条)
(5)総会の議長は、取締役会の議長がなり、その議長が出席している場合はその者(1180条)。
取締役会に議長をおかず、又は、その議長が開会時間後15分以内に会場に到着しないときは、出席者の1人を議長に選任することができる(1180の2条)。
議決の方法は2種類ある。挙手と秘密投票である(1190条)。挙手の場合、出席者一人(代理人を含む)で一票あることに注意願いたい(1182条)。
つまり、出席者の多い方が勝ちである。もう一つは秘密投票で、この場合は1株に1票である(1182条)。
秘密投票は、少なくとも株主2人の要求があった場合可能である(1190)。
付属定款で、議決は秘密投票のみと定めることも可能であるので、合弁の場合は秘密投票である旨付属定款に記載することが肝要であろう。
決議は通常過半数で決定するが、同数の場合、議長が追加の1票を持つ(1193条)。付属定款で3分の2などと定めることは可能である。
特別決議を要する場合、従来は総会を14日以上6週間以内の間隔をおいて2回開催することが必要で、第1回目は相当票数の4分の3以上で可決、第2回目は
3分の2以上で可決する必要があったが、この条項1194条は2008年3月3日の官報で改正が公布され、公布の日から120日を経過した日から1回の開催で、
出席株主の議決権の4分の3以上の賛成があれば特別決議は成立するように改められた。
また、改正では特別決議の場合の召集状は14日以上まえに出し、かつ、地方紙に1回広告しなければならない。
特別決議を要する事項は次の通りである。
(1)基本定款、付属定款の改正(1145条)
(2)新株発行により増資するとき(1220条)
(3)新株を発行するとき金銭以外で払い込むとき(1221条)
(4)減資するとき(1224条)
(5)総会において解散の決議をするとき(1236条)
(6)他の会社と合併するとき(1238条)
5.取締役および取締役会議
取締役の数は一人以上で、総会によってのみ任免される(1151条)。
取締役の数、報酬は総会により定められる(1150条)。
取締役が破産したとき、又は成人被後見人となったとき、その席は空席となる(1154条)。
取締役が株主でなければならないと付属定款で定めている場合、保有する株式は記名式でなければならない(1137条)。
取締役の任期については次の規定がある。
(1)会社登記後、最初の総会及びその後の毎年の最初の総会において、取締役の3分の1が辞任しなければならない(1152条)。
(2)退任予定の取締役は再選を妨げられない(1153条)。
取締役の登記は就任の日から14日以内(1157条)。
取締役、会社、第三者等の関係は、民商法典の委任に関する規定に従う(1167条)。
取締役会議は付属定款に定めがないとき次の規定による(1158条)。
(1)取締役は誰でも取締役会議をいつでも招集できる(1162条)
(2)取締役会は取締役会議の議長を選任することができる。又、その任期を定めることができる(1163条)。
(3)決議は過半数によって決定。同数となった場合、議長が追加の1票を持つ。
取締役会は支配人又は取締役から成る小委員会にその権限の一部を委任することができる(1164条)
取締役の義務としては、次のことに連帯して責任を負うことが定められている(1168条)
(1)株主による株式の払込
(2)法が定める会計帳簿、書類を作成し、保管すること
現金出納帳、資産、負債を表す書類(1206条)
貸借対照表、損益計算書(1196条)
株主名簿(1139条)
株主総会、取締役会議の議事録(1207条)
(3)法の定める通り配当又は利子の分配
(4)株主総会決議の正しい執行
取締役は、株主総会の同意なしに会社と同一の商取引を行うこと、又、同一の事業を営む無限責任のパートナーとなることが禁じられている(1168条)。
取締役が会社に損害を与えたとき、会社は損害賠償を請求できる。会社が拒否した場合、株主が請求できる(1169条)。
ただし、株主総会が承認した場合、責任はない(1170条)。
(1)取締役会での委任、持回り会議
これについては、従来明確な規定がなく付属定款に可能な旨規定している企業もあったが、2009年9月10日付Department of Business
Development局長名で
通達が出され、取締役会議への委任状による出席、持回り会議を付属定款で定めることはできないこととなった。
元来、株式会社においては、株主総会では会社を運営する能力がある者を取締役に選任し、会社の運営を任せているのであるから、当然の通達であろう。
6.配当の分配
総会の決議が必要、ただし、取締役が年間の利益が十分にあると判断したとき、配当ができる。なお、利益以外から支払ってはならない(1201条)。
配当の分配毎に、利益の少なくとも20分の1を資本金の10分の1に達するまで準備金に繰入れなければならない(1202条)。
配当の通知は株主名簿に記載されている株主に対して文書で通知しなければならないが、無記名株主に対しては、少なくとも地方紙に1回公告しなければならない
(1204条:2008年3月改正、3月3日から120日経過した日から施行)。
7.資本の増加
新株発行による増資は株主総会の特別決議を要し(1220条)、その特別決議は決議の日から14日以内に登記を要する(1228条)。
又、基本定款の変更となるので同じく14日以内に基本定款の変更登記をしなければならない(1146条)。
新株の払込は金銭によること。金銭以外の場合は株主総会の特別決議を要する(1221条)。
各株主はその持ち株数に比例して新株を引受ける権利を有する(1222条)。
8.資本の減少
株主総会の特別決議を要する(1224条)。
額面価額を減少させる方法と、株式数を減少させる方法がある(1224条)。
資本総額の4分の1を下回って減資することはできない(1225条)。
減資を提議するときは少なくとも1回(2008年3月改正前は7回であった)、当該地方紙に公告すると共に債権者全員に通知しなければならない。
通知の日から30日以内(2008年3月改正前は3ヶ月であった)に異議が申し立てられなかった場合、異議がないとみなされる(1226条)。
異議が申し立てられた場合、債務を返済するか、保証しない限り減資はできない(1226条)。
減資の特別決議は、決議の日から14日以内に登記を要する(1228条)。
又、基本定款の変更となるので、同じく基本定款の変更登記をしなければならない(1146条)。
9.会社の決算
取締役は収入、支出並びに会社の資産と負債に関する帳簿を作成しなければならない(1206条)。
少なくとも12ケ月に1回貸借対照表、損益計算書、営業報告書を作成しなければならない(1196、1198条)。
貸借対照表は少なくとも1人の会計監査人によって監査され、貸借対照表の日付から4ケ月以内に総会に提出しなければならない。
又、その写し1部を総会の少なくとも3日前に株主に送付することを要し、事務所内で公開しなければならない(1197条)。
誰でも最新の貸借対照表を入手する権利がある(1199条)。
10.会計監査人
非公開株式会社は中小向きの組織であるが、会計監査については、2004年会計業法37条、2000年会計法11条により公認会計士を会計監査人としなければ
ならない(法人所得税申告書添付の決算書の監査は2001年3月12日付国税局長告示により、株式会社については公認会計士)。
会社の利害関係者、取締役、会社の代理人、従業員は会計監査人となれない(1208条)。 つまり、全て外部監査であることに注意願いたい。
毎年通常総会において選任、再選可能(1209条)。
空席が生じた場合、直ちに選任のため臨時総会を招集しなければならない(1211条)。
会計監査人は通常総会において貸借対照表及び会計簿について報告の義務がある(1214条)。
会計監査人の報酬は株主総会で定める(1210条)。
11.その他の重要事項
(1)社債は発行できない(1229条)
(2)自己株の保有、質受けはできない(1143条)
(3)株主数は3名以上を必要とする(1237条)
(従来は7名以上であったが、2008年の改正で3名を下回った場合、裁判所は解散を命令することができると改正された)
12.会社設立の手順
会社登記の担当官庁は、商務省の商業発展局(Department of Business Development)である。
登記は、以下の三つの手順に従って行われる。
(1)商号の予約
他の会社の商号と重ならないよう、予め登記局に予約するもので、第1、第2、第3希望を提出する。
第1希望が重なり、第2希望が重ならない場合、第2希望が許可される。
最近はインターネットで自ら調査することができるようになっており、その場合結果は直ちに判明する。
ただし、許可から30日以内に次の基本定款の登記をしないと無効となる(期限延長は可能)。
(2)基本定款の登記
タイ国の会社法では、第6章で詳述するように、定款は基本定款(Memorandum of Association)と付属定款(Articles of Association,By−Law)の二つがある。
前者は会社の目的が主な内容で、後者は会社の内規である。
基本定款は、発起人(自然人)3名以上(改正前は7名であったが改正により3名以上となった)の署名により社名(上述の許可を受けた商号)、住所、登録資本金額、
1株の額面、総株数、株主の責任は有限であることの宣言、会社の目的、発起人の氏名、住所、年齢、職業、引受株式数(発起人は最低1株を引き受けなければなら
ない)を記載したもので、発起人3名の署名を要する。これを登記局で登記する。
(注:発起人が外国人の場合、パスポートの写し、タイ人の場合身分証明書の写しを必要とする。)
会社の目的は、日本の場合と大きく異なり、会社特有の目的(***の製造販売など)の外に、会社の運営上必要なあらゆる業務(担保の提供、融資を受ける
ことなど)が記載され、これは通常商務省の見本に従って作成される。
官庁などの諸手続きには、会社の目的を提出しなければならないことが多く、日本と異なり、目的にない業務はできないことになっているので注意すること。
登記に当たっては、登録資本金10万バーツ当たり50バ−ツ、ただし、最高限度額2万5千バーツまでの登記科を納付しなければならない。
(3)全株式の引受、創立総会の開催、会社の登記
発起人を含め全株式が引き受けられたら、創立総会を開催しなければならない。
創立総会では、次の事項が決議されなければならない。
1)株式引受人の名簿の確認(氏名、地位、住所、引受株式数)
2)付属定款の採択(注:商業発展局の見本がある)
3)発起人の行為、支払った経費の追認(追認されなかった場合、発起人は連帯して無限責任を負う)
4)優先株がある場合、優先株に関する事項
(注:1142条で優先権は変更することができないので注意すること)
5)金銭以外の方法によって全額あるいは一部払込に対して発行される普通株、優先株、払込額の決定。
役務または財産の報酬として払込まれたとみなされる普通株、優先株を発行する場合、明細を明確にして総会に提出
(日本と異なり、検査人の証明は要求していない)
6)最初の取締役、会計監査人の選任、権限の決定 創立総会後3ケ月以内に会社の登記を行わなければならない。
(4)会社の登記
(注:発起人は創立総会で事務を取締役に引継ぐので、会社の登記は取締役の仕事となる)
株式引受人が引受株式の全てについて25%以上払込んだら登記を行うことができるが、登記事項には以下を含まなければならない(1111条)。
1)普通株と優先株に分けて、引受けまたは割当てられた株式の総数
2)金銭以外によって全額または一部を払込む普通株式、優先株式の数、部分払込の場合 はその払込額
3)各株式について金銭により払込まれた額
4)株式の代金として受領した総金額
5)全取締役の氏名、住所、職業
6)取締役の権限。複数の取締役がそれぞれ別の権限を有する場合、それぞれの権限
(注:会社を代表する署名も単独、複数など会社の事情により様々な態様があるので、それに合わせて署名権者を登記する。また社印も署名と同時に押印して
会社を拘束するとするのが普通であるから社印も登記する)
7)会社の存続が一時的なものであれば、その期限
8)本店、全支店の所在地
9)その他一般に周知させた方が適当と認める事項
以上基本定款から始まって最後の登記まで、全てタイ語である。
特に、最後の登記の際は、かなり分厚い書類に代表者が署名をしなければならないので、タイ語の読めない外国人は登記申請代理人(弁護士等)と良く内容を
確認することが大事である。
また、英語で作成した書類は、全てタイ語に翻訳して登記所へ提出することになるが、弁護士事務所などでの翻訳には、よく間違いがあるので、ダブルチェックする
などの注意が必要である。
登記科は登録資本金額10万バーツ当たり5百バーツ、最高限度25万バーツまでである。
(5)設立登記事務の簡素化
2008年3月に法律が改正されて1111/1条が追加され、以下の手続きが完了しておれば基本定款の登記と会社の登記を同日に行うことができるようになった。
1)株式引受人が揃っている。
2)創立総会で議題が発起人と株式引受人全員が議題を承認した。
(この場合の議題は、1108条で付属定款の採択、発起行為の承認、発起人への支払い、優先株、金銭以外による出資、取締役の選任、会計監査人の選任がある)
3)発起人が事務を取締役へ引き継いだ。
4)取締役が株式払込みを請求し、払込まれた。
(6)外国人事業法の規制を避けるためにタイ人の名義借り防止策
本件については第3章タイの外資政策においても述べているが、名義借りを防止するため、商務省商業発展局中央登記局の登記規則が2006年7月20日に出ている
(同年8月2日官報公布)。
それによると、株式会社とパートナーシップの外国人の持分が40%から50%未満である場合、または、外国人の持分が40%未満であるが外国人が支配権を
持っている場合、登記の際タイ国籍者の株主または社員は全員6ヶ月遡った銀行預金の記録、もしくは、本人の資金に関する銀行の証明書、もしくは、投資した
金額に関する証明を提出しなければならないことになっている。