(2008/7/1) タイの会社法と日本の会社法        小林 秀彦* 山田 昭**


1.
会社法は、個人とは別個の権利・義務の主体を作る為の法技術です。
従って、宗教や 文化などによって大きく異なる家族法や相続法と異なり、各国によってその基本構造や 概念にそれほど大きな差異はありません。
つまり会社は構成員(株主等)と構成員の集 合体(株主総会等)と業務執行者(取締役等)からなる組織体であることは各国におい て共通と思われます。
しかしその具体的な内容や手続きは各国によってそれぞれ異なり ます。 このような相違点に気がつかないまま、何となく日本の会社法と同じであろうと想像 してある行為を行った為に大きな誤りが生じることもあります。
むしろタイの会社法と 日本の会社法は異なるものであることを前提にした方が良いのかもしれません。
本稿は、タイに進出されているまたはこれから進出しようとしている日系企業の方々 に、タイの会社法の概観を理解して戴くことを目的として、日本の会社法と対比しなが ら実務的な観点から説明していきます。
尚、参照する条文は特に規定しない限りタイ民 商法典をさします。

* こばやし ひでひこ 三宅・山崎法律事務所 バンコクオフィス駐在弁護士 ** やまだ あきら 三宅・山崎法律事務所 パートナー弁護士

2. 会社の種類
タイにおいて「会社法」という名称の法律があるわけではありません。これは日本も 同じで、日本では一般に商法第2編「会社」及び有限会社法、その他関連法規を合わせ 会社法とよんでいます。
タイでは会社に関する法律として、民商法第22章「パートナ ーシップ及びカンパニー」と公開株式会社法があり、これらを合わせ会社法とよぶこと にします。 タイの会社法が規定している組織体としては、未登記普通パートナーシップ、登記済 み普通パートナーシップ、有限パートナーシップ、非公開株式会社、公開株式会社の5 種類があります。
未登記パートナーシップは2人以上の者が共通の事業のために共同する事に同意す る契約で、登記所に登記してないものを言います。登記してない為、これを第三者に対 抗することはできません。
つまりたとえパートナーシップの名前で行動したとしても、 そのパートナーシップはその構成員とは別個の法人格は与えられず、その権利義務は構 成員個人に帰属します。日本では「組合」に該当します。
登記済普通パートナーシップは文字通り登記所に登記されたパートナーシップで、登 記によりこのパートナーシップはその構成員とは別個の法人格が与えられます。
つまり そのパートナーシップ自体で契約したりする事が出来るようになります。契約の相手方 はもちろんパートナーシップ自体の責任を追及することが出来ますが、更にその構成員 に対しても責任を追及することが出来ます。
つまり普通パートナーシップの構成員は連 帯して無限責任を負います。日本の「合名会社」に該当します。 有限パートナーシップはその責任が出資の額に制限されるパートナーと、連帯して無 限責任を負うパートナーから構成されるパートナーシップで、日本の「合資会社」に当 たります。
非公開株式会社と公開株式会社はともに有限責任を負う株主のみから構成される会 社です。公開株式会社は株式を公開することを予定するような大規模な会社を想定し、 比較的詳細な条文を規定しているのに対し、非公開会社は小規模な会社を想定しており、 日本での「株式会社」と「有限会社」の差異に類似します。ただし日本では本来の趣旨 とは異なり、小規模の「株式会社」が多く、会社といえば株式会社が通常ですが、タイ ではほとんどの会社が非公開株式会社で、公開株式会社は上場企業などに限られます。
タイの日系企業もほとんどは非公開株式会社ですが、最近は公開への動きもあり、ま ず公開株式会社と非公開株式会社の違いを概説し、その後非公開株式会社について述べ ていきます。

3. 公開株式会社
公開株式会社のメリットは資金調達の多様性にあります。つまり非公開株式会社は株 式を公募したり、第三者割当増資をすることが出来ず(第 1102 条、第 1222 条)、また 3 社債発行をすることは出来ません(第 1229 条)。これらの方法で資金調達するために は公開株式会社になる必要があります。
従って、タイの証券取引所に上場するには公開 株式会社でなくてはなりません。一方このような資金調達により、経営にあまり関心を 持たない一般投資家が株主または社債権者となりますので、これらの者保護する必要が あり、取締役の義務を加重したり、株主代表訴訟などの少数株主保護の規定をおいてい ます。
実務的にみて最も大きな違いは株式の譲渡制限です。非公開株式会社においては、付 属定款に例えば「取締役会の同意を必要とする」と規定すれば取締役会の同意のない譲 渡は無効であり、会社はその譲渡を無視することが出来ます。それに対し公開株式会社 では譲渡制限は原則として出来ません。
従って、会社にとって好ましくない者が株主と なることを防ぐことは出来ません。ただし主要株主間において、株式を譲渡するには相 手方の同意を必要とすると合意する事までは禁じられていないと考えられます。しかし この合意に反して譲渡がなされた場合でも、会社はこの譲渡を認めざるを得ず、後は株 主間で相手方の不履行を主張して損害賠償を請求することが出来るだけだと思われま す。ただし、これによりどのような損害が発生したか証明できるかは問題です。
資本金額について、日本の株式会社では最低 1000 万円、有限会社では 300 万円の制 限がありますが、タイにはそのような制限がありません。公開株式会社を設立するには 15 名以上、非公開株式会社では3名以上の発起人が必要で、発起人は最低 1 株以上の 株式を引き受けなくてはならず、1 株の価格は 5 バーツ以上ですから、理論的に公開株 式会社の最低資本金は 75 バーツ、非公開株式会社は15 バーツとなります。
株主の最低人数については、公開株式会社では株主が 15 名未満、非公開株式会社で は3名未満になった場合には裁判所の命令により解散されると規定されている事から (第 1237 条)、公開株式会社では 15 名、非公開株式会社では3名という事になります。
取締役の人数について公開株式会社では5名以上必要であるのに対し、非公開株式会 社は特に定めはありません。 取締役選任については、公開株式会社においては累積投票の制度が認められています。 つまり、例えば3名の取締役を選任する場合には、1株につき3議決権が与えられ、こ れをその株主は1人の取締役に全て投票することが出来る制度です。
この制度がなけれ ば株式の過半数の持つ株主が全取締役を選任出来るのに対し、この制度では、少数株主 も株主割合に応じた数の取締役を選任することができます。
ただし、この制度は日本の 株式会社と同様に付属定款に規定する事により排除する事が出来ます。非公開株式会社 にはそのような累積投票の制度は認められていません。 取締役の義務としては、非公開株式会社において善管注意義務及び競業避止業務が定 められていますが(第 1168 条)、公開株式会社ではこれに加え、自己取引の禁止、取 締役への貸付の禁止、総会決議なくしての報酬の支払い禁止など、取締役の行為が制限 されており、これを担保する為株主の代表訴訟や差止請求が認められています。
株主総会についても、公開株式会社では少数株主を保護する為に、議案提出権等が認 められています。 以上からみて、公開株式会社は証券取引所に上場を予定する場合にのみ考慮すべき事 項だと思います。そして上場する場合には公開株式会社法の規制だけではなく、より厳 格な証券取引所規則等の規制も受ける事になります。

4. タイの会社法の基本問題
(1) 外国人企業規制法 タイで会社を設立する際に一番に問題になるのが、外国人企業規制法です。
この法律 は、1972年に制定され、タイでの外国企業の事業活動を大幅に制約していました。 諸外国からの批判を受け、1999年に全面改正され、緩和の方向に進みだしましたが、 まだかなりの制約が存在します。外国人企業規制法は資本金の半数以上を外国人が持つ 会社を外国人企業と定義し、外国人企業が行えない業務を 3 つの種類に分けて規定して います。農林、畜産、放送等、特別な理由により外国人が従事することができないカテ ゴリー1、国家の安全保障、芸術文化、自然資源に関連する事業で内閣の承認に基づく 大臣の許可の必要なカテゴリー2、タイ国民が外国人との競争する準備が整っていない 事業として委員会の承認に基づき局長の許可を必要とするカテゴリー3があります。日 本企業が関心のある建設、仲介、代理、卸売、小売、サービス業等は、そのほとんどが カテゴリー3に分類され、局長の許可が必要とされ、その許可を取得するのは容易では ないといわれています。
尚、製造業については、一部のものを除き規制の対象外ですか ら、日本企業が関心のある自動車、電気機器、電子機器等の製造は、日本企業の100 パーセント子会社でも行えます。
この外国人事業規制法の制約とよく混同されるものにタイ国投資委員会(BOI)の 外資規制があります。BOI は国内および国外の企業の投資を奨励するために、一定の 要件を満たす事業に税務上の恩典を含む特典を与えています。
BOI はこの特典を与え る条件として、その事業の種類や立地に応じ、一定割合のタイ資本の参加を求めていま す。この特典を受けるため、外国人企業規制法上では100パーセント外国資本であっ ても行える事業を、敢えてタイ資本との合弁にすることによって行っている製造業の会 社もあります。タイ国で事業を行う日本企業は、その特典の内容、それに伴う制約等を 十分考慮して、進出形態を考える必要があります。 外国人企業規制法の制約により、または BOI の特典を取得するためにタイ資本の参 加を余儀なくされる会社は、適切なタイ側パートナーを捜し出さなくてはならず、これ が最も難しい問題です。
さらに一般に外国出資者側は、自らが会社を支配し、経営したいと考えています。
し かしながら株式会社というものは資本多数決の原則が支配します。つまり資本の多数を 5 持つものが会社を支配し、それに不満の少数株主は排除されざるをえません。
このよう な状況の下で、少数株主である外国出資者がその会社を支配しようとすることは、それ 自体が本質的に矛盾している事になります。タイの日系企業が抱えるタイ側パートナー との紛争はこの問題に尽きるといって過言ではありません。この問題を未然に防ぐ為各 企業は色々な工夫をされていますが、どれも根本的解決にはなりません。
なぜなら根本 的解決は外国人企業規制法の完全廃止以外にないからです。 改正外国人企業規制法では、その制限事業を毎年見直しすることが謳われていますが、 1999年の改正後まだ実際の見直しはされていません(只、見直し作業は行われてい ます)。
従って、完全自由化にはまだ相当の時間がかかると思われます。そうである以 上、各企業としてはその規制の中で、そのリスクを充分に理解した上で行動するしか方 法はありません。会社設立に際し、このリスクを充分に認識しないで安易な方法をとら れる例もよくみかけられます。専門家と充分に相談され、最善の方法をとる必要がある と思います。

(2)資本制度
タイと日本では資本制度が大きく異なります。日本では授権資本制度で全額払込主義 制度であるのに対し、タイは総額資本制度で分割払込主義をとっています。 日本では会社を設立する際、会社が発行する株式の総数を決定します。これは会社が 発行することが出来る株式の数の枠の事で、この範囲で取締役会は事由に株式を発行す る権限があるため、これを授権資本と呼んでいます。
ただしあまり広範囲の権限を与え る事は適切ではないので、少なくとも授権資本の4分の1以上の株式を設立時に発行し なくてはなりません。逆にいえば、設立時に発行する株式数の4倍を授権資本として定 める事になります。次に株主が引き受けた株式についてはその全額を会社設立前に払込 まなくてはなりません。これを全額払込主義といいます。
具体例で説明すると、資本金1000万円の会社を設立する場合、1株の発行価格を 5万円とすると、設立時に発行する株式数は200株になります。 授権資本はその4 倍ですから800株となり、取締役会は残り600株を適当な時期に株主総会の承認を 得ることなく自由に発行出来ることになります。設立時に発行される株式200株につ いては、それを引き受けた株主は発行価格の全額を設立前に払込まなければなりません。 仮に1株につき5万円で発行するとその全額が払込まれる事になり、実際に銀行に10 00万円の資本金が払込まれる必要があります。株主は有限責任といわれますが、設立 時には既にその責任である株式払込義務は全て履行しており、それ以上の責任を負う事 はありません。会社がこの資本金を増す為には新株を発行する増資手続を取る事になり ますが、株主はこれに応じる義務はありません。 一方タイでは、設立に際して登録する資本金を定め、1株の額面金額と株式数を決め ます。この株式は設立時に全て株主により引受けられなければなりません(第1104 6 条)。これを総額資本制度といいます。
ただしこの株式を引受けた株主は、その引受金 額全額を設立時に払込む必要はありません。引受額の4分の1以上の額を取締役会が定 め、これを株主は払込む事になります(第 1110 条)。これを分割払込主義と言います。 具体例で説明すると、登録資本金を 100 万バーツ、1 株の額面 100 バーツとすると株 式数は 1 万株になります。この 1 万株は設立時に全部株主により引受けられなければな りませんが、全額払込まれる必要はありません。取締役会は資金需要に合わせ、4 分の 1 以上つまりこの例ですと 1 株につき 25 バーツ以上払込ませる事になります。つまり設 立時に会社が有する実際の資金は 25 万バーツで、これを払込資本金と言います。日本で は、設立時には株主は全ての払込義務を履行していますが、タイでは引受けた額の一部 の払込義務を履行しただけで、まだ引継ぎ払込義務を負っています。
具体例では、1 株 につき未払いの 75 バーツを取締役会が要求した場合には払込まなければなりません。 資金が必要となった為、払込資本金を 25 万バーツから増やす事は増資ではなく、未払 い金額の払込にすぎず、株主総会の承認はいりません。払込資本金が登録資本金と同額 になり、さらにそれを増加させる場合が増資で、これには基本定款の変更等の手続が必 要で、株主総会の特別決議が必要となります。
尚、BOI の特典を受けた会社の場合は、BOI はその特典を与えるにあたり、操業開 始までに引受た資本金の全額が払い込まれることを要件にしていますので、注意する必 要があります。 タイにおいては、払込資本金と登録資本金が異なる場合が少なくありませんから、会 社はこれを明確に区別しなければなりません。全額が払込まれてない限り、払込資本金 であることを明示することなく単に資本金を何等かの書類、広告等に表示する事は違法 になります(第 1149 条)。
日本の授権資本が設立時の資本の 4 倍であり、一方タイの登録資本が払込資本の 4 倍である事が通常である為、両者が混同されて理解されている場合が少なくありません。
しかし、これらは法律的に全く異なる概念ですので誤解しないようにして下さい。

5.非公開株式会社の設立
(1) 会社商号の予約 会社設立の手続はまず商号の予約で始まります。設立しようとする会社の商号が既存 の会社と同一または類似の場合にはその商号は認められません(第 1115 条)。日本でも 類似商号は禁止されていますが、それは同一市町村において同一の営業に限られていま す。
つまり例えば、東京都千代田区で登記しようとした場合に類似商号があったとして も東京都港区を本店とすれば登記が可能ですし、同じ千代田区内でも会社の目的が異な れば登記は可能です。タイの場合はこのような限定はありません。
従ってタイで類似の 商号が既に登記されていて場合、その地域、営業目的を問わず登記する事は出来なくな ります。 近時のように日系企業が多く進出してきますと、日系企業間で商号が重なり合う可能 性が多くなっており、また日系企業もカタカナの企業名が増えてきたため、タイの地場 企業と商号の重なることも増えています。また意図的に日本企業の商号を流用している 企業も出てきています。そのためタイへの進出を考えられた段階で、幾つかの商号案を 予約されるべきだと思います。 日本では事前に登記所へいって類似商号があるかを調査するのが一般ですが、タイで はとりあえず予約申請をし、類似商号がなければ予約が認められ、あれば拒絶される事 になります。
尚、最近はバンコクでは商号のコンピューター検索が出来るようになりま したので、直ぐに結果がわかるようになりました。予約自体は無料で、この予約の効力 は 30 日間有効です。30 日間そのまま放置すればその予約の効力は自動的に消滅します ので、その間に後で述べる基本定款を申請するか、予約の更新をする事になります。 タイの会社の商号はもちろんタイ語である必要がありますが、タイ語に加え、英語を 併記する事は認められています。
(2) 基本定款の申請
次にしなければならないのが発起人による基本定款の作成およびその登記です。
日本 では定款と言えば会社の基本規則で、公証人の認証を受けた文書をいいますが、タイで は定款と言われるものには基本定款(Memorandum of Association)と付属定款 (Articles of Association )の 2 つがあり、付属定款が日本での定款に類似し、基本 定款は日本では会社登記簿に類似します。
発起人は3名必要で、法人はなれません。国籍、居住地に制限はありませんが、発起 人は、書類に自署しなければならず、外国人はサイン済みのパスポートのコピーを提出 しなければなりません。事務手続を円滑に進める為には、少なくとも1名は設立手続を 行なう法律事務所や会計事務所のタイ人になってもらうのが通常です。 (著者注:外国人が発起人になると、タイ人は、出資相当分の銀行預金証明書が必要)
基本定款に記載しなければならない事項は、(ⅰ)商号、(ⅱ)本店所在地、(ⅲ)事 業目的、(ⅳ)株主が有限責任であることの確認、(ⅴ)登録資本金額および 1 株の額面 金額、(ⅵ)発起人の氏名等およびその引受ける株式数です。
商号は既に述べた方法で予約した商号を記載します。 本店所在地については、この時点では具体的な住所までは必要なく、例えばバンコク というような範囲で記載します。
事業目的については日本とは大きく異なります。日本では、事業目的が異なれば同一 の商号も認められる関係もあり、出来るだけ具体的に且つ限定して記載する必要があり ます。これに対してタイでは一般には登記所が用意している標準様式を用います。
これ は一般目的と業種目的からなっています。一般目的は資産の購入、処分、借入、支店設 置、他社の株式取得など通常の業務に当然伴う行為が列挙されています。業種目的には、 一般に考えられる全ての業種が列挙されており、農業や漁業はもちろんナイトクラブの 経営まであります。日系企業の場合は、実際に行なう主たる業務を付記するとともに、 適当でないと思える業種を削除して登記するのが通常です。
尚、資本の過半数を外国人 が所有する外国人企業の場合には、既に述べたように行なえる事業が限定されています から、一般目的とその行える業務のみを記載します。
株主が有限会社であることの確認は当然の事です。???
更にもし、取締役が会社と連帯し て個人責任を負う場合にはその旨明記します。
もちろん、取締役は通常そのような責任 を負いたいとは思いませんので、この部分は空欄となります。 登録資本金についての上限および下限はありません。理論的には既に述べましたよう に、株主が最低3名必要で、1 株の額面は最低 5 バーツですので最低資本金は15 バー ツとなります。
日本では近時の商法改正で、額面株式が廃止され、無額面株式のみになりましたが、 タイでは逆に無額面株式は認められておらず、額面株式でなければなりません。額面金 額は5バーツ以上でなければなりません。一般には、上場企業の場合は10バーツ、一 般企業の場合は100バーツが多いようです。 発起人については既に述べましたが、発起人は少なくとも1株以上株式を引き受けな ければなりません。日系企業の場合、法人が株主となるのが通常で、法人は発起人にな る事は出来ませんから、設立後に発起人からその株式の譲渡を受けることになります。
但し、既に述べましたように、株主は最低3名以上必要ですから、注意する必要があり ます。 従来は、発起人及び株主とも最低7名必要であったため、その人数合わせに苦労しま したが、2008年の改正により最低3名となり、少しは緩和されました。
しかし、ま だ日本のように株主は 1 名で良いというところまでは至っていません。

(3) 創立総会
次の手続は創立総会の開催です。株式を引受ける株主が決まると、これらの引受人が 出席して、会社の重要事項を決定する総会を開く事になります。 総会で決定すべき事項は、(ⅰ)株式引受人の承認、(ⅱ)付属定款の承認、(ⅲ)発 起人の行為の承認、(ⅳ)株式の種類および払込額の決定、(ⅴ)取締役の任命とその権 限の決定、(ⅵ)会計監査人の任命 などです(第 1108 条)。 付属定款は日本の定款に類似するもので株主総会の手続等、会社の基本規則が記載さ れています。これも標準様式があり、一般の会社ではこれをそのまま用いますが、合弁 企業の場合は、それぞれの権利、義務関係を規定した合弁契約に基づき、これを修正し なければなりません。
例えば、株主総会の決議は単純多数決によるのが一般ですが、そ れでは資本の過半数を有するタイ側パートナーが日本側パートナーの反対を無視して も決議が成立します。これを妨げる為に、合弁契約書で株主総会の決議には 3 分の 2 以 上の同意を必要とするというような少数株主保護の規定をおくことがよくあります。 しかし合弁契約書自体は当事者間契約ですから、相手方がこれに違反して総会決議を行 なった場合でも決議自体は有効で、相手側の契約違反になるにすぎません。このような 状態を避ける為に、付属定款自体を合弁契約書の内容に沿ったものにして登録しておけ ば、このような決議自体定款違反で無効になります。
ただし、一般に会社法は強行法規 と言われ、当事者間で自由に変更出来るわけではなく、変更できる事項は限定されてい ますので注意する必要があります。 発起人は会社設立登記完了以前に例えば事務所を借り受ける等新会社の為に色々な 行為をしなければなりません。これを開業準備行為といいます。会社自体はまだ設立さ れていませんから、会社自体の名前で契約する事は出来ません。しかし発起人が個人の 名前で契約すると、それはあくまで個人の責任となり、設立後会社にこれを移転するに は、相手方の同意等の手続が必要となります。これを避ける為には、設立準備中の会社 の発起人代表として行為し、これを創立総会で事後承認してもらいます。これにより、 設立された会社自体がその契約等の主体となり、発起人はその責任を免れる事になりま す(第 1113 条)。
株式の種類の決定として、優先株を発行する場合にはその内容を決めなければなりま せん。優先株とは利益配当等につき、一般の株式(普通株)に優先する株式をいいます。 例えば、利益が出たときにはまず優先 株に配当し、その残りを優先株と普通株で分け合 うという事が出来ます。優先株は、このように経済的利益において優先される一方、議 決権の行使等につき制限を加える事が出来ます。日本においては、優先株が優先配当を 受けている間は議決権がないと定めることが出来る旨明文で規定されていますが、タイ においては、具体的にどのような制限を加える事が出来るか、またどのような内容の優 先権を与えるかについては規定されていません。
従って、個々の事案毎に商務省の判断 を受ける必要があります。一般に議決権を一切奪う事は出来ないが、例えば優先権2株 で1議決権を与えるというような制限は可能だと言われています。従って、前に述べた 外国人企業規制法の関係上タイ側の株式数を過半数にしなければならない場合に、タイ 側の株式を優先株にすれば、タイ側は株式数上は過半数を持つが、議決権では逆に日本 側が過半数を持ち、会社を支配する事も可能となります。
ただし、優先株の規定が明確 でない事、また日本において優先株を発行する例が非常に少ない事から実際に優先株を 発行している日系企業は少ないようです。 払込額は、前に述べましたように少なくとも4分の1以上でなければなりません(第 1110 条)。 取締役の数、国籍、居住地については特に制限はありません。一般には 3 名以上とす ることが多いようです。外国人企業では、全ての取締役を外国人とする事も出来ますが、 そうでない一般のタイ国内企業では、明文の規定はありませんが、少なくとも 1 名のタ イ人を取締役にするよう指導があることもあるようです。
取締役のうちから Authorized Director を選任しなければなりません。これを代表取 締役と訳してある本もありますが、日本の代表取締役とはかなり異なる概念であり、む しろサイン権者と訳した方が良いと思います。日本の代表取締役は、会社の営業に関す る行為について決定し代表するという包括的権限を有していますが、タイのサイン権者 はこのような包括的権限は有していません。
ただこの者の署名と登録した会社印のある 文書のみが会社の正式な文書となるにすぎません。従って Authorized Director という 肩書きは一般には使われていません。会社が発行しなければならない正式の文書は税務 関係の書類をはじめとして数多く、それら文書に全てサイン権者は自署しなければなり ません。
従ってサイン権者が 1 名だけの場合、その方が日本に一時帰国されるような場 合に業務に支障が出ますので、複数のサイン権者を指名された方がよいと思います。 「あるサイン権者は単独で署名が出来、他のサイン権者は複数で署名しなければならな い」というような決め方も可能です。 会計監査人は日本と異なり外部監査であり、タイの公認会計士でなければなりません。 日本の場合、通常の会社は内部監査のみで、公認会計士の外部監査は資本金が 5 億円以 上等の大会社に限られますが、タイでは全ての会社が外部監査を受けなければなりませ ん。一方日本のような内部監査を予定した規定はなく、一般にそのような監査もなされ ません。
(4) 資本金の払込
創立総会が開催され、株主が当初振り込まなければならない額が銀行に振り込まれる と、会社の登記を申請する事になります(第 1111 条)。
タイにおいても日本と同様、会 社設立登記に際して、資本金払込に関する証拠書類、例えば、銀行発行の残高証明書等 の提出が必要になりました。
(5) 設立登記
上に述べた手続が終了すると創立総会議事録、株主名簿等必要書類を添付して、設立 登記を申請します。 添付書類の一つとして本店設置場所使用許可書と本店の家屋登記簿の写しが必要と なります。基本定款では、バンコクというような広範囲の地域を本店所在地として指定 するだけで良いのですが、設立登記の段階では具体的な住所を確定する必要があります。
そして、本店を設置する建物の家屋登記簿の写しおよび家主の許可書が必要となります。 新会社が工場を建設し、そこを本店とされる場合、工場建設が完了し、家屋登記簿が作 成されるまで設立登記が出来ない事になります。
このような場合とりあえず仮の本店を 登記しておき、後に本店移転手続を取る事になります。新会社自体が事務所を借りる場 合は特に問題はありませんが、駐在員のアパートを取り合えず本店とする場合や、関係 会社の事務所を本店とする場合、法律的に転借となり家主側の承認および協力を得る事 が難しい場合がありますので注意してください。 会社設立登記の際に会社印も登録するのが通常です。この会社印の押印とサイン権者 の署名により、その文書が会社の正式なものとなります。会社印の形等については特に 規定はありません。
日系企業ではタイ語と英語の会社名が記載された丸型で、真中に会 社のロゴが入っているというような形が多いようです。いろいろな部署が使用しますの で複数作っておかれたほうが便利だと思います(但し、登録手続には登録済会社印を使 用する必要があることは注意して下さい)。 会社設立登記の完了により、法律的には法人という法主体が誕生し、行為の主体とな ることが出来ます。ただし実務的には、その後法人税およびVATの登録、労働許可証 の取得等の手続が更に必要であり、実際に会社が営業を開始するには、更に 1~2 ヶ月 必要となります。

(6) 設立に要する費用および期間
基本定款の登録費用は登録資本金 100 万バーツ当たり 500 バーツで最高額は 2 万 5000 バーツ、会社設立登記の登録費用は登録資本金 100 万バーツ当たり 5000 バーツ で最高額は 25 万バーツです。これは登記所に実際納める費用で、それ以外に設立手続を 依頼する弁護士事務所や会計事務所の費用がかかります。
この費用はサービスの内容に よって色々のようです。数万バーツで受けている所もあるように聞いていますが、名前 の通った法律事務所や会計事務所に依頼する場合は10万バーツ前後ではないかと思 います。
これはあくまで標準的な設立手続に関する報酬のみで合弁契約の作成や検討、 書類の翻訳、関係者との打ち合わせ等の報酬はこれに含まれません。一般にこのような 業務を行なう法律事務所の報酬は時間制となっており、その料金はだいたい全世界共通 で、最も経験のある弁護士で 1 時間当たり 300 ドル位、若手弁護士で 100 ドル位が相 場のようです。
会社商号予約から会社設立登記完了までに要する期間は、全ての書類が事前に準備さ れていれば、理論的には 3 週間ほどで可能です。しかし実際には書類が日本とタイとを 往復したりで、2 ヶ月位かかるのが通常です。またBOIの認可を受ける企業はBOI の認可を受けてから設立手続きにはいる事が本来予定されています。
なぜなら、BOI の認可が拒否された場合は、設立自体無意味になる場合もありますし、認可された場合 でもタイと外国投資家の資本比率等につき条件が課せられる場合もあり、計画を大幅に 変更しなければならない場合もあるからです。
その場合はBOI申請から会社設立登記 完了まで半年位かかるのが通常です。工場の操業を少しでも早める為、BOIの認可を 待たず会社設立手続の一部を先行または同時進行させる場合もよくみられますが、その 場合でも 4~5 ヶ月かかるのが通常です。

6.株式
(1) 株式の種類 既に述べましたように、タイでは無額面株式は認められておらず、額面株式である必 要があります。1 株の額面は 5 バーツ以上でなくてはなりません(第 1117 条)。 優先株の発行が認められていること(第 1108 条 4 項)およびその内容については既 に述べた通りです。

(2) 株券の発行 株券は常に発行されなければなりません(第 1127 条)。
日本のように株主の要請に より株券を発行しない株券不所持の制度はありません。しかしながら実務では株券を発 行していない会社も多くみられるようです。その為、株主間に紛争が生じた場合に収拾 がつかないこともよくあります。
株券を発行するとともに株主名簿および株券台帳を整 備する必要があります。また日本側パートナーがタイ側パートナーの株式を譲受出来る 権利を有しているような場合は、株式譲渡証とともに株券を日本側パートナーが保管し ておく必要があります。
タイにおいては前に述べましたように、全額払込主義ではなく分割払込主義を採用し ている為、設立当初の段階では額面金額の全額が払込まれていない場合があります。 その場合でも株券は発行しなければなりませんが、その際には払込金額を株券に明記す る必要がありますので注意してください。
株券には記名株券と無記名株券があります(第 1128 条)。記名株券を発行するのが 通常で、無記名株券を発行するには付属定款に記載しておく必要があります。 株券が紛失した場合、日本では公示催告の手続きを申立て、除権判決を得て初めて再 発行することが出来ますが、タイではそのような手続はありません。実務的には、警察 に対する届書を添付する事により再発行を認めているようです。

(3) 株式の譲渡
日本において株式を譲渡するには法律的には株券を相手方に交付するだけで十分で、 その他の書面は必要としません。タイでは無記名株券は株券の交付だけで譲渡出来ます が(第 1135 条)、通常発行されている記名株券の場合は、譲渡人および譲渡人が署名 し、その署名を確認する証人の署名した株式譲渡証を作成しない限り譲渡は無効です (第 1129 条)。この譲渡を会社に対抗するには、つまり会社に対して自分が株主であ ると主張するには株主名簿に記載される必要があり、これは日本と同じです。逆に言え ば会社は株主名簿に記載されている者を株主として扱えばよい事になります。 未公開株式会社では付属定款に規定する事により、株式の譲渡を制限する事が出来ま す(第 1129 条)。日本においても定款に規定する事により株式の譲渡につき取締役会 の承認を必要とすることが出来ますが、タイでの制限はこれに止まらず、他の株主全員  の同意を必要とするというような制限も可能です。 日本においては、譲渡制限はあくまでも制限であって禁止ではありません。会社にと って好ましくない相手に株式が譲渡されることを制限する為、譲渡を希望とする株主に 対して会社側が譲渡先を指定したり、それを買い入れたりすることが出来るだけです。 そしてその方法、売買価格などについて詳細な手続が会社法に規定されています。
これに対しタイの会社法では、譲渡制限が可能である旨の規定があるだけで、その後 の手続についてはなんらの定めもありません。従って、これを補完する為に株主間契約 書および付属定款にこれらの手続を規定するのが一般です。例えば、譲渡を望む株主は まず他の株主に譲渡を申し入れ、これが拒否された場合のみ第三者に売却する事が出来 るとか、他の株主が額面または直近の貸借対照表に基づく純資産を株式数で割った金額 どちらか低い方で購入する権利を持つとか規定します。 尚、譲渡制限をする場合でも、自己の子会社等に譲渡する場合は他の株主の同意を不 要とすると規定し、会社組織の変更に妨げにならないようにする必要があります。
(4) 自己株式の取得
日本において会社が自己の株式を取得する事は従来はかなり制限されていましたが、 近時はその制限が緩やかになりました。これに対しタイでは自己株式の取得および質受 は全面的に禁止されています(第 1143 条)。

7.取締役
(1) 取締役の数および任期 日本では取締役の数は 3 名以上と決められていますが、タイでは株式総会で自由に決 定する事が出来ます(第 1150 条)。業務から見れば複数の取締役は必要で、一般には 3 名以上の取締役を選任する例が多いようです。 任期は、日本の場合 2 年以下(但し、最初の取締役は 1 年以下)でなければなりませ ん。
タイにおいては、まず最初の株主総会で必ず 3 分の 1 が辞任しなければなりません。 誰が辞任するかは取締役相互の合意で決められますが、合意しない場合には抽選になり ます(第 1152 及び第 1153 条)。もちろん再選は可能です。そして次の年の総会では残 りの 3 分の 2 の半分の 3 分の 1 が辞任し、その次の総会では残りの 3 分の 1 が辞任し ます。例えば取締役が 6 名の場合、毎年 2 名づつ辞任し、3 年で全員が改選される事に なり、従って任期は 3 年以下となります。
(2) 取締役の選任および解任
取締役の任免が株主総会で決議される事は、日本もタイも同じです(第 1151 条)。
但し、日本では選任、解任について定足数およびその決議要件を他の決議に比べ厳格に していますが、タイではそのような規定はありません。 また、日本においては取締役の選任について累積投票を認めています。(但し、ほと んどの会社では定款でこれを排除しています。)タイの場合、既に述べましたように公 開株式会社ではこの制度を認めていますが、非公開株式会社では認めていません。
従っ て、資本の過半数を有するものが取締役全員を指名する事になります。外国人事業規制 法のためにタイの会社の資本の過半数を取得できない日本側パートナーの利益を守る 為には、日本側パートナーが一定の数の取締役を指名する権利を株主間契約書に規定す ると共に、それを付属定款に記載することが必要です。
(3) 取締役会
取締役が複数いる場合は取締役会が構成されます。日本の場合最低 3 ヶ月に一度開か なければならないと規定されていますが、タイでは特に規定はありません。従って、公 式の取締役会は、定時株式総会に付随するものしか開かない会社も多いようです。 取締役会の定足数は自由に定めることが出来ます(第 1160 条)。取締役会の決議は 過半数の賛成により成立します(第 1161 条)。この決議要件を加重する事は可能で、 取締役会の過半数を占める事の出来ない少数株主は、その利益の保護の為に、この要件 を例えば 4 分の 3 の賛成というように加重して付属定款に規定するのが一般です。
取締役会はその議長が主催します。一般には事前にその議長を定めておくのが通常で す(第 1163 条)。この議長は、取締役の決議が可否同数になった場合、更に追加の一 票を持ちます(第 1161 条)。但しこの権利は付属定款で規定する事により排除する事 が出来ます。取締役会の議長は、後で述べるように株主総会においても議長となります (第 1180 条)。
議長が可否同数の際に追加の一票を持つ事およびそれを付属定款で排 除できる事は取締役会の場合と同じです(第 1193 条)。 取締役会の議長は以上に述べたような権限を有しますが、それは取締役会および株主 総会という内部機関内の問題であって、第三者との関係では当然には他の取締役より優 位した地位を持つものではありません。一般に取締役会の議長は取締役会会長という肩 書きを与えられ、一つの名誉職として実務に直接関与しないタイ側の要人がなることが 多いようです。
日本において取締役会は、取締役間の意見交換によって、叡知と識見の結集を図るも のであるとされ、代理出席はもちろんのこと持回り決議も無効であると言われています。
タイにおいてはこれに関する規定はなく、学説においても有効、無効の両説あるようで す。実務的には持回り決議や代理人出席を認めている会社も多く、この場合にはその旨 付属定款に規定しておく必要があります。
(4) 取締役の責任
取締役は日本と同様その業務執行につき善良な管理者としての注意義務および競業 避止業務を負います(第 1168 条)。これに違反した場合、会社はその取締役に対し損 害賠償を請求することが出来、会社がこれを行なわない場合は株主更には債権者が行な う事も可能です(第 1169 条)。但し、具体的にこのような株主代表訴訟が提起された という事はまだあまり聞きません。
(5) 役員
株式会社の運営は最高の意思決定機関である株主総会の指示に従い、取締役会に委ね られます。但し、日常の業務につき取締役会が決定する事は非現実的である為、このよ うな業務はオフィサー(役員)に委任されます。
どのような肩書きの役員を指名し、ど のような権限を持たせるかは取締役会が決定します(第 1164 条)。 President,Managing Director,Chief Executive Officer(CEO)など色々な 名称の役員が選任されているようです。
タイには会社を包括的に代表する代表取締役という制限はありません。その署名によ り会社が拘束されるサイン権者の制度はありますが、両制度は前に述べましたようにか なり異なる概念ですから注意する必要があります。

8. 株主総会
(1) 定時総会および臨時総会
定時総会は毎年 1 回決算報告のために行なわれる事は日本もタイも同じです。タイに おいては更に会社設立登記後 6 ヶ月以内に必ず開かなければなりません(第 1171 条)。 これは会社設立直後は会社の状況が不安定なため、これを株主に知らせる為だと思われ ます。 臨時総会は随時開かれますが、欠損が資本の半分に達した場合は必ず臨時総会を開催 し、これを株主に知らせなければなりません(第 1172 条)。株主に今後も事業を継続 するか、会社を解散するかを検討する機会を与える為です。
(2) 総会の招集
取締役会が総会を招集しますが、少数株主もその招集を取締役会に請求し、その請求 後 30 日以内に招集されなかった場合は自ら招集する事が出来ます(第 1174 条)。日本 では少数株主が総会招集するには、3%以上の株式を所有すれば十分ですが、タイでは 20%以上の株式を所有する必要があります。 招集通知は、従来は株主への郵送通知または地方紙への公告でよいとされていました が、2008 年の改正で、郵送と公告の両方が必要とされました。
(3) 議決権
16 優先株式など議決権に制限がある場合を除き、1 株につき 1 議決権があり、この過半 数により決議が成立するというのが日本の株式会社の当然の前提ですが、タイではそう ではありません。タイの株式会社の決議は原則として拳手で行なわれ(第 1190 条)、挙 手の場合は 1 株主につき 1 議決権が与えられ(第 1182 条)、この過半数で決議が成立 します(第 1190 条)。もし、1000 株の株式を所有する株主 1 名と 10 株の株式を所有 する株主 2 名の意見が対立した場合、2 名の株主は合計 20 株の株式しか所有しないに もかかわらず、2 議決権で過半数を制する事になります。ただし、2 名の株主により投票 が要求された場合には、決議は投票による事になり、その場合は 1 株式につき 1 議決権 が与えられます(第 1190 条、1182 条)。
従って、手続の混乱を避ける為にも、あらか じめ付属定款で決議は挙手でなく投票による旨規定しておいた方がよいと思われます。 また、決議が可否同数になった場合は、取締役会と同様、議長は株主であるか否かに かかわらず追加の 1 議決権を得てそれを行使することが出来ます。ただし、議長のこの ような権利は付属定款に規定する事により排除する事が出来ます。
(4) 決議要件
日本の場合、通常決議は定款に別段の定めがない限り、発行株式総数の過半数の株式 を有する株主が出席し、その議決権の過半数により決議され、特別決議はその議決権の 3 分の 2 以上により決議されます。 タイにおいては、通常決議の要件は日本に比べ緩やかで、総株式の 4 分の 1 以上を有 する株主が出席すれば定足数を満たし、その決議は議決権の過半数により成立します (第 1178 条、1190 条)。
一方特別決議は日本に比べ厳格になっており、総会で行使さ れた議決権の 4 分の 3 以上の多数で決議される必要があります(第 1194 条)。従来は 2 回の臨時株主総会の開催が要求されていましたが、2008 年の改正で、総会の開催は 1 回で良いことになりました。
つまり、日本では3分の1を越えた議決権を有しないと少数株主は特別決議を阻止で きないのに対し、タイでは 25%を越えた議決権を有すれば特別決議は阻止できる事に なります。
特別決議が必要な案件としては、基本定款および付属定款の変更(第 1145 条)、新 株発行(第 1220 条)、現物出資による新株払込(第 1221 条)、減資(第 1224 条)、解 散(第 1236 条)、合併(第 1238 条)があります。

9. 会計監査人
タイの会社は会計監査人を選任しなければなりません。日本の監査役とは制度が異な ります。日本では、商法上の会社は監査のため監査役を選任し、公認会計士によるいわ ゆる会計監査は資本の額が5億円以上または負債の合計額が 200 億円以上の大会社の  みが必要です。
それに対し、タイの監査はいわゆる会計監査で、会計監査人は外部の公認会計士から 選任されなければなりません。これは会社の規模の大小に関係なく必要となります。
タイの公認会計士の数はそれほど多くない為、会計監査が株主総会に間に合わないとい うようなこともよく起こるようです。 会計監査人の業務は、貸借対照表および帳簿を監査し、株主総会でそれが適正に、作 成されたかどうか報告する事です(第 1213 条、1214 条)。
任期は 1 年で、毎年株主総 会で選任されます(第 1209 条)。 このようにタイの会計監査人は会計監査をするのであって、日本の監査役のように取 締役の業務執行を監査する権限はありません。
従って、取締役会に出席する権利もあり ません。

10. 新株発行
(1) 未払分の払込
既に述べましたように、タイでは取締役会が一定の範囲で自由に新株を発行すること が出来る授権資本制度はとっていませんので、新株発行は常に株主総会のそれも特別決 議が必要です(第 1220 条)。 既に発行された株式につき、まだ全額の払込がされてない場合は、まず株主に未払い 分を払込んでもらい、それでもまだ資金が不足の場合に新株を発行する事になります。 取締役会はいつでも株主に未払い分を払込むよう請求することが出来ます(第 1120 条)。21 日間以上の猶予を与えて催告し、株主が期日までに払込まない場合はその株式 を没収し、競売する事になります(第 1121 条~第 1125 条)。
(2) 新株引受権
日本においては、株式に譲渡制限がある場合には法律により原則として株主に新株引 受権が与えられていますが、それ以外の場合には株主は新株引受権を有していません。
タイでは、譲渡制限があるかないかにかかわらず、常に株主は新株引受権を有します(第 1222 条)。従って、特定の者に対し新株を発行しようとした場合、日本では株主に新株 引受権が与えられている場合は株主総会の特別決議でこれを排除し、与えられていない 場合は取締役会で自由に発行することができるのに対し、タイではこのような方法は取 れません。その特定の者が従来からの株主でない場合は、既存の株主に対し新株発行を し、その新株をその者に譲渡する事により、またその特定の者が既存の株主である場合 は、他の株主が新株引受権を放棄する事により、特定の者に新株を発行する事になりま す。

11. 配当
配当は利益が出た場合に株主総会の決議により行なわれる事は日本と同じです(第 1201 条)。
ただしその利益の 20 分の 1 を利益準備金として資本の 10 分の 1 に達する まで積み立てなければなりません(第 1202 条)。
日本の場合の配当性向は低く、1 割程度の配当の会社が多いですが、タイでは配当率 はかなりの高率です。貯金でもかなりの高金利ですから、投資であるなら最低 2 割5分 は当然と考えられているようで、5割以上の配当も珍しくありません。
合弁企業で業績 が好調の場合、日本側はその利益を今後の投資に向ける為、社内留保に回したいと考え るのに対し、タイ側は投資として相応しい配当を要求し、意見対立が生じることがよく あります。事前に配当計画についてもよく話し合っておくことが必要です。
12. 減資
減資するには、株主保護の点から株主総会の特別決議、債権者保護の点から債権者異 議制度がある事は日本もタイも同じです(第 1224 条、第 1226 条、第 1227 条)。日本 では株主総会決議により自由に減資割合を決定できるのに対し、タイでは 1 度には 4 分の 1 までしか減資する事は出来ません(第 1225 条)。 減資は登録資本金を減少させる手続ですから、登録資本金がまだ全額払い込まれてな くても可能です。
例えば登録資本金が 400 万バーツで既に払込まれた資本の額が 100 万 バーツにすぎない会社の場合でも、いったん残りの 300 万バーツを払込ませてから減 資手続に入る必要はなく、直ちに登録資本金を 4 分の 1 の 100 万バーツまで減少させ る事が可能です。

13.合併
合併としては、既存の 2 社のうち 1 社が存続し残りの 1 社が消滅する吸収合併と、 既存の 2 社が共に消滅して新しい会社が設立される新設合併があり、日本では吸収合併 が一般です。
タイでは法律では新設合併しか予定しておらず、吸収合併は認められないようです (第 1241 条)。また合併に伴う税務上の処理が必ずしも明確でないようで、合併の例 はあまりないようです。

14.解散および清算
(1) 解散
会社は特別決議により解散する事が出来ます(第 1236 条)。大きな収益をあげてい る会社もたくさんありますが、当然のことながら予想通りの収益を上げられずに大幅な 赤字を抱えている合弁企業もまたたくさんあります。
このような場合、どのようにし て合弁から撤退するかにつきタイ側パートナーとうまく合意できない事が一般です。 つまり既に生じた損失についてどのように負担しあうのか、会社を解散させるのか、会 社を破産させるのか、一方が他方の株式を取得するのか、などについて意見が対立する 事が多いです。この為、赤字が続いているにもかかわらず解散する事も出来ずにいる会 社も多くあります。
合弁設立時に事業がうまくいかない場合について検討するのは難し い事ですが、これらの基本的事項については合弁契約にあらかじめ規定しておく必要が あります。
株主間で合意できない場合、会社の事業が欠損の外は遂行されずその財産を回復する 見込みがないとして、裁判所に解散の申立てをする事も可能です(第 1237 条)。
また このような場合、日本の親会社は合弁会社に対して貸付をしているのが一般ですから、 債権者として破産を申立て、解散させるという方法もあります。
尚、タイの破産法にお いては、会社自身が破産を申し立てる自己破産の制度はなく、債権者が破産を申し立て る強制破産の制度があるだけです。
(2) 清算
会社が解散すると清算手続に入ります。原則として取締役が清算人となり、債権を回 収し、債務を支払い、資産を処分するなどの清算手続を進めます。引き受けたにもかか わらず、まだ引受価格の全額を払込んでいない株主はもちろん未払分について直ちに支 払わなければなりません(第 1265 条)。
清算手続はいろいろな登録や公告手続に時間がかかるだけではなく、税務当局からの 承認がないと清算が結了せず、このため 2~3 年はかかると考えていなければなりませ ん。また税務調査により未払いの税金が見つかり、罰金も含めればかなりの額を支払わ なければならず、そのため更に親会社の出費が増える事もあります。
清算人は、その会社が債務超過だと知った時点で裁判所に破産を申し立てなければな らず(第 1266 条)、その後は破産手続に進みます。
一般には負債の大部分は親会社から の貸付である為、親会社がこれを放棄し、清算手続を進める事になりますが、この親会 社の債権放棄が日本の税務上どう処理されるか検討する必要があるとともに、タイの税 法上も債務免除益に対する法人所得税の問題を検討しておく必要があります。
清算の場合に生じるかもしれない税金、債権放棄にあたっての税務上の問題点、結了 まで清算人の業務が継続する事などを考えると、破産の場合はその時点で清算人の業務 は終了し後は裁判所の選任した管財人に委ねられる事などから、むしろ破産手続に入る ほうが簡易だと思われる場合もありますが、破産という事に抵抗を感じる会社も多く、 まだそのような手続に入る日系会社は少ないようです。
このような手続に入る前には、日本側の株式を適当な第三者に譲渡し、会社の商号も 変更して、日本側との関係を単なる債権者と債務者の関係だけにしておく事も検討すべ きです。


15.終わりに
ここに書いたものはあくまで一般論であり、具体的な事例によっては結論が正反対に なる場合もあるかもしれません。 読者の皆様にはこれはあくまで検討の為の資料にす ぎない点をよく理解して頂き、実際に色々な実例を処理される際には改めて事前に専門 家の意見を聞いて頂きたいと思います。 以上


1. はじめに
2. 会社の種類
3. 公開株式会社
4. タイの会社法の基本問題 (1) 外国人企業規制法 (2) 資本制度
5.非公開株式会社の設立 (1) 会社商号の予約 (2) 基本定款の申請 (3) 創立総会 (4) 資本金の払込 (5) 設立登記 (6) 設立に要する費用および期間
6.株式 (1) 株式の種類 (2) 株券の発行 (3) 株式の譲渡 (4) 自己株式の取得
7.取締役 (1) 取締役の数および任期 (2) 取締役の選任および解任 (3) 取締役会 (4) 取締役の責   任 (5) 役員
8. 株主総会 (1) 定時総会および臨時総会 (2) 総会の招集 (3) 議決権 (4) 決議要件
9.会計監査人
10.新株発行 (1) 未払分の払込 (2) 新株引受権
11.配当
12.減資
13.合併
14.解散および清算 (1) 解散 (2) 清算

コメント:大変参考になります。2016.08.08

出典:http://www.mylaw.co.jp/lawyers/yamada_docs/141203thai.pdf

   (参考) タイ国民商法典第22編パートナーシップと会社法