(1)『させていただきます』

□問題提起

私は最近、表題の言葉を聞くにせよ、文章を見るにせよ、無性に腹立たしく感じる事があります。そこで、この表現について私なりに検証をし、皆さんに問題提起したいと思います。

まず、よく目にする二つの例を紹介します。


(1)明日は定休日に付き、休業させていただきます。  (デパート)   

                   
(2)明日は、休刊日に付き朝刊を休ませていただきます。(新聞)

以上の表現については、(ア)敬語の表現として適切で問題なし。(イ)敬語の表現として問題あり(ウ)どちらともいえない(つまり、わからない)と、見解は3つに分かれるでしょう。

小生は(イ)の見解から論じたいと思います。(ア)の立場に立つ人は、なぜ問題なのかわからないから、そう思うのでしょう。もうひとつ最近の例文を挙げます。

当社に求職してきた応募者が履歴書に添えた文章ですが、ご丁寧に、「履歴書を送付させていただきますのでよろしく・・・・」と書かれてありました。

この場合「履歴書を送付致しますので・・・・」という「する」の謙譲語の方が適切でないかと思ったりします。皆さんはどう思いますか?

(2)『させていただきます』

敬語の表現との関係表題の表現は、相手を敬う、「敬語」な訳ですが、敬語の使い方によっては、相手に失礼な表現となることもあります。

かつて、「今月末をもって退職させていただきます」と退職願を示した者がいましたが、あきれて何も言えませんでした。

「敬語」については、学校できちんと学ぶ機会が少ないため、どうしても乱れがちになります。

敬語を使う時、相手が(ア)年上(目上)の人(イ)同等の人(ウ)年下(目下)の人、の3ケースによって、異なってきます。

また、敬語は尊敬語、丁寧語、謙譲語の3種類に分かれています。上の退職願のケースで云えば、年下の人が年上の人に謙譲語を使うのは失礼です。 

敬語の表現法を学ぶため本屋へ行って本を探してみましたが、具体的な敬語の表現例について説明した本は見つかりませんでした。

『敬語総論』といったタイトルの本があれば教えてほしいものです。日本語の乱れが激しい、という声を聞くにつけ、残念でなりません。

しかし、小生はそのプロセスでさまざまな問題を提起し続けたいと考えています。

(3)『させていただきます』

□ 文法的理解

「させて」は「する」の使役形に接続助詞「て」を付加したもの。

「いただきます」は、もちろん「ます」の謙譲形です。この二つの動詞が結びついて、複合動詞となり特別の意味を持つ言葉を形成しています。

つまり、「する」「もらう」の動詞が原形で、「する」の使役形を用いて、「もらう」の謙譲表現「いただく」を結びつけ「相手がしてほしいと望むのでしからば、自分が進んでしあげよう」という意味になった。

しかし、この本来の表現が、いつの間にか、相手が望まなくても自分勝手にしてあげよう、という表現をとるに至ったのです。

(4)『させていただきます』

□その意味

この表現は「強い意志」を表すとされています。例えば、「私が行かせていただきます」といえば、「私が行きます」という強い意志を含んだ表現。

さらに大きな声で強く言えば「どんなことがあっても、誰が反対しても私は行くんだぞ」という内容になります。

最初に示した例「今月末をもって退職させていただきます」は、「どんなに会社側が反対してもオレは退職するんだ」という、強い意思を表わした事になってしまう訳です。

書いた本人は、上品な表現を使ったつもりでしょうが。問題がもう一つ含まれています。

というのは、この退職願を書いた本人には退職は、雇用者が願い出て、雇用者が許可する、という基本的な考えがなく、一方の宣言で雇用契約が終る、と誤解したことです。

この場合、正しい表現としては、「今月末をもって退職させていただきたく、よろしくお願いします」が正しいと考えます。

年上の人が年下の人に対し、「・・・・させていただきます」が一般的な使い方であって、その逆はまれです。

大体において、年下の人が年上の人に対し、強い意思を表すケースは、限られています。年上の人に対し、強い意思を表すことは、時に「要求、強い要望」に変わります。

従ってこの表現は、年上の人が年下の人に使うのが順当と考えるべきでしょう。

この場合、年上の人=権力をもつ人、年下=権力下にある人に置き換えることができます。

(5)『させていただきます』

 実際の使用例@

銀行企業、役所、どの世界でも、その長になった人は部下に対しても、謙譲の美徳であるこの表現を用います。

銀行の、取締役会(重役会)で、頭取が、「私が議長を務めさせていただきます」とか、「この案で実施させていただきます」と言ったりするのが好例です。

頭取は、平取に比べ、権力のある人であり、その平取に「・・・・させていただきます」と表現し、謙譲語を用いて話す。

これが、同じように部長会、課長会でも同じように使われていき、一般の行員は、男性でも、女性でも、以上の例に倣って間違った通例となってきました。

担当者が融資先であるお客に、「この案件は、融資させていただきます」と間違って言ったりする訳です。

本人は、丁寧語のつもりで表現したつもりでしょうが、聞いた人は、違和感を感じる。

銀行の取り引きは本来平等の立場であり、上下関係、権力関係がないにもかかわらず、この表現は権力をもつ人、目上の人が、権力のもたない人、目下の人に対して用いるものだからです。

(6)『させていただきます』

 実際の使用例A

このシリーズの最初に問題提起した文章「明日は定休日に付き、休業させていただきます」について検討してみましょう。

「させていただく」の表現が、年上の人が年下の人に対して、へりくだった態度を表現する時、用いると、書きましたが、デパート側がこの考えに立って定休日のお知らせを書いたのでしょう。

銀行の取締役の例の通り、デパート側が、お客に対して、敬語を用いたつもりでしょうが、実際は逆にいんぎんな、尊大な表現になっているのです。

やはり、この場合「定休日には、休業いたします」という「する」の謙譲語が正しいのではないでしょうか?

一方、させていただく、の表現が強い意志を表すので、この考え方に立つと「明日は、どんなことがあっても休みますのでよろしく」という内容に思えます。

(7)『させていただきます』

 実際の使用例B

世の中は、上には上があり、下には下があり、どんな人でも頭を下げてくれる人がいるものです。 頭を下げなければならない人に対してこの表現を軽々に用いるな、と言いたい。

これは、年上、年下の問題ではなく、“お金を払う人が偉い世界”に於いてです。

出入り業者は、納入担当者に対し、「その案で実行させていただきます」でなく「この案で実行致します」が、正しいでしょう。

最近の例では、旅行チケット業者が「このフライトはキャンセルさせていただきます」と言っていたが、態度が大きく感じました。本人は丁寧な表現と思っているのですから仕方ないですが・・・・・。

「する」の謙譲語「致す」の表現が忘れられ、もっぱら「・・・させていただく」の表現になったのは、上の人の物まねをしたからであって、良い表現であっても、強い文化、強い力、強い人の表現に押し

流されてしまうのは、仕方のないことなのでしょうか?

 ちなみにタイ語や英語では謙譲表現がありません。日本独自の美しい言語の一つの形と言えるでしょう。

しかしまた、ここにこそ、日本語の他国語にない美しい表現を乱す危険性が包含されてもいる訳です。

(8)『させていただきます』

 実際の使用例C

日本人がタイに観光に来て、日本語の流暢なガイドに出会いました。「今日、皆さんのガイドをさせていただきますソムチャイです。どうぞよろしく」と。

ガイドの立場でさせていただく」ということは敬語の表現から考えると適切でないと思うのは私だけでしょうか?(へたなガイドでも最後まで自分がするからな、と聞こえる)

お客という、もちあげなければならない人に対して、この表現は不適切、自分が立場上、下にいるにも限らず使用しているからです。

やはり、この際の表現は「今日、皆さんのガイドを致しますソムチャイです」が適切でしょう。

同じような例で、ある同好会の幹事になった役員が、若輩にもかかわらず生意気にも、司会をさせていただきます小林です、などと云う。

敬語を使ったつもりでいるのでしょうが、聞いている側からすると、「私はみんなが反対しても絶対司会をするんだ、いいだろう」と聞こえるのです。

何回もくり返しますが、この表現は権力をもった人がその部下に対して使う表現であって、平等な関係や上司に対して、やたらに使うな、といいたいのです。