タイ国経済概況(2017年4月)

タイ商務省、タイ中央銀行、国家経済社会開発庁(NESDB)から発表される諸指標に基く経済動向、タイ投資委員会(BOI)から発表される投資動向、
および政治面での主要な動きを、月次まとめてお送りします。

日タイビジネスフォーラム金融委員会 

1.景気動向

タイ中央銀行は331日、2月の月例経済金融報告を発表。
足許のタイ経済は、物品輸出および観光業の回復、政府支出の拡大により上向いており、景気は着実に回復に向かっていると指摘した。
まず、民間消費は耐久財と消費財の双方で伸び、季節調整済みの前月比で+
1.4%、前年同月比+4.0%となった。
物品輸出は同+
0.7%の184億米ドルで、天然ゴム・ゴム製品などの相場上昇、スマートフォン向け部品需要の増加、家電や太陽光パネルの中国からの生産移転、集積回路の中国・香港・日本・韓国向け輸出増、エアコンのCLMV向け輸出増などが寄与した。
一方、民間投資は緩やかながら回復基調にあるものの、
2月単月では同▲0.5%と低調、投資の多くは代替エネルギー、サービス業、輸出関連事業に集中している。

2月の自動車生産台数は前年同月比▲7.2%の15.4万台、国内向けが+9.3%の6.7万台、輸出向けが▲16.9%の8.7万台となった。
同月の自動車国内販売台数は+
19.9%の6.8万台で、前月に引続き二桁の成長。
要因としては、各自動車メーカーが新車を発表し販促キャンペーンを行ったことや、景気の回復に伴い消費者の財布が緩んできている事があげられる。
一方、
2月の輸出台数は同▲6.2%の9.8万台で8ヶ月連続のマイナス成長、前月比では5ヶ月連続の減少となっている。
輸出台数を仕向地別に見ると、中東向けのシェアが前年同月は
17.5%であったものが7.0%と激減。アジア・オセアニアに続く3番目の輸出先であったが、欧州と中南米向けに抜かれ、5番目に後退した。
タイ工業連盟(
FTI)自動車部会は年初に今年の自動車生産台数の予測値を200万台と設定。
内訳は、輸出向けが
120万台、国内向けが80万台。
しかし輸出の低迷を鑑み、
13月までの実績を見た上で生産台数の予測値は変更される見込み。
商業省は43日、3月のCPI(消費者物価指数)を前年同月比+0.76%と発表。
燃料の値上がりが主な要因。
もっとも生鮮野菜や卵・乳製品、コメ・穀物製品などの値下がりによりインフレ圧力が弱まり、
2月の同+1.44%から減速した。
CPIの上昇率は20164月よりマイナスからプラスに転じ、201612月より1%を越える上昇率が続いていた。
商業省は
17年通年のCPIの上昇率を+1.52.2%と見込んでいる。

2.投資動向

328日、工業省が電気自動車(EV)生産における支援措置を承認。
充電ステーションなどのインフラ整備やサプライチェーンの投資振興など、包括的な支援を行うとしている。
また、同月
24日には、タイ国投資委員会(BOI)がEV生産に対する投資奨励策を決定 。
EV生産に投資をする自動車メーカーが投資優遇を受けるには、駆動用モーター、バッテリー・マネジメント・システム、運転制御システムなどの基幹部品の生産を含む投資計画の提出が必要となる。
奨励の対象は
EVだけではなく、ハイブリット車(HV)およびプラグインハイブリット車(PHV)も含まれる。
法人税の免除期間の上限は、
EV10年、PHV6年、HVは法人税免除の対象外となっている。
もっとも、生産機械の輸入関税については、いずれも免除となっている。

NESDB(タイ国家経済社会開発委員会)は、タイ政府が国境で開発する経済特区(SEZ)につき、投資総額約85.4億バーツ、40件以上の投資が始動したと発表。
328日付の各地元紙が報じている。ミャンマーとの国境北部ターク県が最大で、投資総額は約35.4億バーツ、投資件数は22件となっている。
主な業種は繊維、衣料品、皮革製品、建設、プラスチック製品、飼料など。
ターク県メーソートでは、
3月にポリ袋製造大手のユニーク・プラスチック・インダストリーの工場が竣工、タイ北部やミャンマー向けにポリ袋やプラスチック容器を供給する。
投資額で見ると、ターク県に次いで、南部ソンクラ―県(
17.5億バーツ・6件)、東部サケオ県(12.8億バーツ・3件)、東北部ムクダハーン県(8.3億バーツ・4件)、中部カンチャナブリ県(6.4億バーツ・3件)と続く。
タイ政府は国境地域の
SEZに対する内外の投資家の関心を高めるための取組みを続けている。
一方、産業が集積しているバンコク近郊から離れるならば、いっそ人件費のより低い国境の先のカンボジア・ラオス・ミャンマーへ進出すべきと考える企業も多く、特に日系企業を含む外資企業の国境
SEZに対する関心はいまだ低調である。

3.金融動向

タイ中央銀行の発表によると20172月末時点の金融機関預金残高は181,015億バーツ(前年同月比+3.5%)、貸金残高は167,452億バーツ(同+3.9%)といずれも増加。

4.金利動向

3月の回顧) 29日、タイ中央銀行は金融政策決定委員会で予想通り政策金利を1.5%に据置いた。
声明文にはタイ経済に関して足元は堅調ながら、世界景気の先行き不透明感からリスクは下振れとの認識を示した。
タイ経済は、顕著な輸出の回復をドライバーとして従来想定より早いペースで景気拡大しているとし、
2017年のGDP成長率の見通しを+3.4%(前回+3.2%)に上方修正。
2018年は内需と輸出とのバランスを取りながら景気拡大が継続する見通しとの認識を示し、GDP成長率見通しを+3.6%とした。
一方インフレについては、徐々に上昇してきてインフレターゲットの中心値に戻っていくことが見込まれるが、想定よりも低い原油価格から
2017年見通しを+1.2%(前回+1.5%)に下方修正した。
景気は拡大方向ながら、インフレはターゲット中央値以下にあることから、マーケットでも当面は現状維持となるとの見込みが主流。
バーツ金利は、米金利動向に連れて
2年物国債利回りは1.71%から一時1.77%まで上昇後1.68%と小幅低下、10年物国債は2.73%から一時2.86%まで上昇後、2.72%に低下した。
4月の展望) タイ経済は輸出の回復が景気を牽引するも、トランプ米大統領の政策懸念が浮上しており、グローバル経済の先行き不透明感からタイ中央銀行は当面政策金利を据置き、様子見姿勢継続が予想される。
外部環境の影響を受けやすい長期金利を中心に米国金利に振らされる可能性が高く、米国が
6月利上げに傾くかどうかに注目。

5.為替動向

3月の回顧) 3月のドルバーツ相場は、米利上げ期待から月前半はドル高/バーツ安となったが、利上げ実施以降はドル安/バーツ高となり、月間では結局ドル安/バーツ高が進行した。
月初
35.00あたりでスタートした後、米FRB高官から利上げに前向きな発言が相次ぎ利上げを急速に織り込みドルが買われ、ドルバーツも上昇し、35.42まで上昇。10日に発表された米国雇用統計は利上げを後押しする良好な結果であったが、さらに強い結果を期待する向きもあったことからドルバーツは下落。
15日には事前予想通り米利上げが実施されたが、先行きの利上げペースが緩やかなものにとどまるスタンスが示されたことからさらにドル売りとなり、ドルバーツは35割れまで下落。
その後オバマケア代替法案の採決が回避され実質的に廃案となったことから、トランプ政権の政権運営を巡って懸念が高まりドルバーツは
34台前半まで下落。
29日に開催されたタイ中央銀行金融政策委員会では政策金利の据置きが決定されたが、事前予想通りであり特段材料視されず。
月末にかけてはトランプ米大統領が貿易赤字の要因を特定することを目的とする大統領令に署名との報道から通商政策を巡っての懸念が高まり、タイも対米貿易黒字国であるであることからドル安
/バーツ高が進行し34.37あたりでクローズ。

4月の展望) 米利上げ動向、トランプ米大統領の政策を眺めながらの動きに。
ドルバーツ相場は足元、トランプ政権の経済政策や保護主義的な通商政策の動向に振らされているものの、米国の利上げスタンスに変更ないため、米経済指標を確認しながらドル堅調地合いに回帰が基本シナリオ。
足元高まっている中東での地政学リスクや、フランス大統領選などといった政治イベントが波乱要因。

6.政治動向

321日の閣議にて、土地・建物税関連法の草案が承認された。
今後
NLA(国家立法議会)に提出され、23ヶ月かけて審議される見込み。
本法案は貧富の格差是正や税収増などを目的としており、税率は累進制で農地・住宅・商用・遊休地の
4区分で異なる。
農地は、評価額
5,000万バーツ未満の場合は非課税で最高税率は0.2%。
住宅は、最高税率が
0.2%で、1件目の住宅のみ評価額5,000万バーツ未満が非課税。
商用地の最高税率は
2%。遊休地は当初は2%の課税、その後も利用されなければ3年ごとに0.5%引上げられていき、上限は5%となる。
遊休地への課税については土地の有効活用が進むという見方が強い一方、宅地に関しては、非課税枠(
5,000万バーツ)が大きすぎ、貧富の格差是正という観点からは不適切という意見も出ている。なお、大枠は消息筋が伝えているものの、詳細については法案の成立を待つ必要がある。

当記事は、三井住友銀行バンコク支店がとりまとめた資料を、同支店のご好意により利用させて頂いています。
(出典:http://www.jtbf.info/review1704_j.html