|
タイ商務省、タイ中央銀行、国家経済社会開発庁(NESDB)から発表される諸指標に基く経済動向、タイ投資委員会(BOI)から発表される投資動向、および政治面での主要な動きを、月次まとめてお送りします。
日タイビジネスフォーラム金融委員会
1.景気動向
タイ国家経済社会開発庁(NESDB)が8月21日に発表した第2四半期(4~6月)のGDP成長率は+3.7%となり、過去4年間で最高の伸びとなった。
農業、サービスおよび輸出などが好調に推移し、市場予測を上回る成長となった。
NESDBは下半期も輸出が好調を維持し、かつ投資も回復すると見込んでおり、2017年の成長率見通しを5月時点の+3.3~3.8%から+3.5~4.0%へ上方修正を行った。
またアピサック財務相は、「東部経済回廊(EEC)の開発が進めば、今後数年内に+4~5%の経済成長も可能」との見方を示している。
タイ工業連盟(FTI)は8月23日、7月の自動車生産台数を前年同月比+3.3%の15.9万台と発表。
うち国内向け生産台数は、6.3万台で同+5.5%、輸出向けは9.6万台で同+2.0%となった。
1月から7月までの自動車生産台数は111.0万台で前年同期比▲3.2%、うち国内向け生産台数は47.6万台で同+4.3%、輸出向けは63.4万台で同▲8.3%となった。
国内販売台数は前年同月比7ヶ月連続のプラスとなっており8月も伸びが続くと見込まれている。
しかし、輸出台数は13ヶ月連続で前年同月を下回っており、中東向けを中心に不振が続いている。
今年のFTIによる自動車生産台数の見通しは、年初の200万台から3.5%引下げられ193万台となっている。
また、バンコク日本人商工会議所(JCC)自動車部会は、2017年のタイ現地日系メーカーの自動車生産台数を178.2万台とし、16年実績の181.8万台から約2%減少する見通しを発表している。
2.投資動向
タイ投資委員会(BOI)は上半期(1~6月)の投資統計を発表。新規申請額は2,918億バーツで前年同期比+3.3%、件数は612件で同▲13.6%となっている。
業種別では「サービス・インフラ(1,675億バーツ、同+4.6%)」が首位で、「化学・プラスチック・紙(284億バーツ、同+55.7%)」「電気・電子(264億バーツ、同+16.1%)」はいずれも二桁増。
一方、「金属・機械・輸送機器(390億バーツ、同▲13.0%)」「農業・農産物加工(264億バーツ、同▲4.0%)」「鉱物・セラミック・基礎金属(28億バーツ、同▲8.1%)」「軽工業(13億バーツ、同▲78.1%)」は前年を割り込んだ。
新規申請額2,918億バーツのうち、海外からの投資(外資比率10%以上の企業からの案件を集計)は1,190億バーツ。
このうち日本からの投資が最も多く654億バーツにのぼり、また投資額10億バーツ以上の大型案件は19件でこのうち日本がかかわるものが11件となり、日系企業が上半期のタイへの海外投資を牽引した。
3.金融動向
タイ中央銀行の発表によると2017年7月末時点の金融機関預金残高は18兆2,663億バーツ(前年同月比+4.4%)、貸金残高は16兆8,606億バーツ(同+3.5%)といずれも増加。
4.金利動向
(8月の回顧) 8月のバーツ金利は、緩やかに低下。タイ10年物国債金利は2.435%近辺でオープン。
月初公表された米経済指標は強弱区々となる中、米金利は低下。
トランプ米政権の混乱も米金利低下要因となった。これに連れてタイ10年物国債金利も2.32%近辺まで低下。
中旬には北朝鮮がグアムに向けてミサイルを発射する計画を策定との報道が嫌気されたこともあり、タイ10年物国債金利は一時2.47%近辺まで上昇。
16日にはタイ中銀の金融政策委員会(MPC)にて政策金利据え置きが決定されたが、事前予想通りで特段マーケットへの影響は見られなかった。
その後、米トランプ政権で人事に絡む騒動が相次ぎ米金利が低下し、バーツ金利も低下。
21日にタイ中銀がバーツの投機的取引を制限する新規制の導入検討を示唆するとバーツ金利は上昇。
23日にはタイ貿易統計が赤字に転落となったことを受けて、タイ10年物国債金利は一時2.32%まで低下。
ジャクソンホールで、イエレン米FRB議長が金融政策に関して特段発言しなかったことで低下した米金利に連れてバーツ金利も低下。そのような環境下、北朝鮮が発射したミサイルが日本上空を通過したとの報道やタイ中銀のマーティ副総裁がバーツ高抑制に向けた資本規制は現時点で必要ないとの見解を示したこともバーツ金利低下を促した。
31日に工業省から発表されたタイ製造業生産指数が堅調であったことで、バーツ、タイ株、タイ国債とトリプル高となり、タイ10年物国債金利は2.35%で越月。
(9月の展望) タイの経済指標は、貿易統計こそ赤字転落となったが概ね好調であり、引き続き外国人投資家を惹きつけているものと思われる。
基本的には米金利動向に連れた動きが継続されるものと考えるが、タイ中銀からはバーツの投機的取引に関して新規制導入検討が示唆されており、相応に神経質になっているものと思われる。
マーティ・タイ中銀副総裁は足元では新規の規制は不要の可能性を示唆したものの注意が必要。また、今月は米FOMC、米議会の再開、ドイツ総選挙等のイベントが目白押しとなっているほか、9日の北朝鮮建国記念日に向けて地政学リスクへも予断ならないことから外部環境への目配りが重要。
5.為替動向
(8月の回顧) 8月のドルバーツ相場は、米政治リスク、北朝鮮リスク、米ハリケーン被害と多くのイベントがあったが、前月にスピードを伴って大きく調整したこともあり狭いレンジでの値動きとなった。
月初、ドルバーツは33.285でオープン。上旬に公表された米雇用統計は良好な結果であったものの、それ以上の手がかりに乏しくドルバーツの上値は重いまま推移。中旬以降トランプ米政権で人事を巡る騒動が続いたこともドルバーツの重石となった。
そういった中、21日に米韓合同軍事演習が始まり北朝鮮リスクが警戒され、ドルバーツは一時33.185まで低下。同日発表されたタイ第2四半期GDPが前年比+3.7%と一段と成長加速したこともバーツ買いを後押し。
しかし、同日午後にタイ中銀がバーツの投機的取引を制限する新規制の導入検討を示唆するとドルバーツは33.27まで一気に上昇。23日にはタイ貿易統計が2015年4月以来の赤字に転落したことが材料視され、ドルバーツは一時33.375まで上昇。
月間高値をつけた。25日に予定されていたインラック前首相の最高裁判決は、同氏が出廷しなかったため延期となったがマーケットへの影響は特段見られなかった。
注目されていたジャクソンホールでイエレン米FRB議長が金融政策に関して特段発言しなかったことでドルバーツも軟調に。
さらに、米南部をハリケーンのハービーが直撃し経済への影響が懸念されたことや北朝鮮のミサイル発射に伴う地政学リスクの高まりがドルの重石となった。
そこにマーティ・タイ中銀副総裁が現時点ではバーツ高抑制に向けた資本規制や追加措置を導入する必要はないとの見解を示したことでドルバーツは33.14まで低下し、月間安値をつけた。
その後は、北朝鮮リスクへの警戒感の緩和やハービーによる被害への復興需要期待からドルバーツも反発。
しかし、31日に発表されたタイ製造業生産指数が堅調であったことからドルバーツは軟化し、33.195で越月。
(9月の展望) タイ貿易統計は輸入の伸びから赤字転落したものの輸出は拡大が継続。また、消費者物価指数についても2ヶ月連続で小幅ながら上昇しており、昨年の干ばつの影響が剥落してくると上向くものと思われる。
結果、足元のタイ経済からはバーツ売りの要因はあまり見当たらない。
そういった中、ドル要因で上下する展開が継続するものと思われる。米国に関しては、今月の米連邦公開市場委員会(FOMC)にてバランスシート縮小がアナウンスされるか、また同時に発表される四半期経済見通しおよび政策金利見通しに加えて、米議会での予算、債務上限問題、ハリケーン支援等の審議の行方が注目される。
また、24日にはドイツ総選挙が予定されているほか、朝鮮半島情勢も予断できずと材料目白押し。
6.政治動向
コメの買上げ(担保融資)制度により損失を国にもたらしたとして、職務怠慢の罪に問われていたインラック前首相に対する判決が8月25日に予定されていた。
しかし、インラック前首相は公判に姿を現さず、国外に出国していたことが明らかになった。
最高裁判所はインラック前首相に対して逮捕状を発布、また警察もインラック前首相の足取りを追っている。
タイ政府は8月15日の閣議にて、VAT(付加価値税)の税率7%の適用期間について、期限となっている今年の9月末より、さらに1年間延長することを決定した。
税率引き上げにより、国内消費および民間投資への悪影響を懸念したもの。
なお、VATの税率は法律で10%と定められているが、景気動向をにらみながら暫定税率7%が適用され続けており、10%への移行は長らく先送りされている。
当記事は、三井住友銀行バンコク支店がとりまとめた資料を、同支店のご好意により利用させて頂いています。