タイ国経済概況(2017年10月)

タイ商務省、タイ中央銀行、国家経済社会開発庁(NESDB)から発表される諸指標に基く経済動向、タイ投資委員会(BOI)から発表される投資動向、および政治面での主要な動きを、月次まとめてお送りします。

日タイビジネスフォーラム金融委員会 

1.景気動向

タイ中央銀行(BOT)は9月29日に発表した月例経済報告にて、引き続きタイ経済が上向いているとの見方を示した。輸出や観光など外需は堅調であり、工業生産も増加、しかし内需は伸びが鈍く緩やかな回復にとどまる。

8月の輸出額は前年同月比+15.8%で幅広い分野で増加、経済の牽引役となっている。
8月の輸入額も同比+14.3%と増加している。
電気・電子部品の輸出増に伴い関連製品の原材料や中間財の輸入が増加、また堅調な自動車生産を反映し自動車部品も増加している。
タイ工業連盟(FTI)は9月20日、8月の自動車生産台数を前年同月比+13.5%の17.7万台と発表。うち国内向け生産台数は、7.8万台で同+37.5%、輸出向けは10.0万台で同▲0.1%となった。

1月から8月までの自動車生産台数は128.7万台で前年同期比▲1.2%、うち国内向け生産台数は55.3万台で同+8.0%、輸出向けは73.4万台で同▲7.2%となっている。
8月の国内新車販売台数は6.8万台で前年同月比+6.8%、新車市場は年初より好調が続いてる。

バンコク日本人商工会議所(JCC)自動車部会は、今年の新車市場を80~85万台と予測している。
8月の自動車輸出台数は10.3万台で同+9.3%、14ヶ月ぶりに前年同月を上回った。
中東(1.0万台、同▲20.7%)とアフリカ(0.2万台、同▲8.2%)への輸出は低迷が続くものの、オセアニア(3.3万台、同+32.6%)を筆頭に、アジア(2.5万台、+2.1%)・欧州(1.3万台、+12.3%)・北米(1.1万台、+12.5%)と市場の回復が目立った。
2.投資動向

9月27日、世界経済フォーラム(World Economic Forum)は2017~18年度版の世界競争力報告を発表。タイは、32位(137ヶ国・地域対象)となり、前回から2位上昇した。
ASEANにおけるタイの順位は、シンガポール(3位)とマレーシア(23位)に次いで3番目。
これをうけてソムキット副首相は今後も東部経済回廊(EEC)の開発、デジタル経済化および教育改革などの政策を進め、競争ランキングの順位をさらに引き上げたい考えを示した。

堅調な輸出を背景として、2017年のタイ経済成長率予測の上方修正が相次いでいる。
タイ国家経済社会開発庁(NESDB)の+3.5~4.0%への上方修正(2017年5月時点予測は+3.3~3.8%から)に続き、タイ中央銀行は従前の+3.5%から+3.8%へ引き上げた。
財務省も+3.6%の予測値を引き上げる意向を示している。
また、民間のシンクタンクも同様に経済成長率の上方修正を発表している。

3.金融動向
タイ中央銀行の発表によると2017年8月末時点の金融機関預金残高は18兆2,885億バーツ(前年同月比+4.7%)、貸金残高は16兆9,008億バーツ(同+3.4%)といずれも増加。

4.金利動向
(9月の回顧) 9月のバーツ金利は、前半は北朝鮮リスクや米ハリケーン被害懸念、米利上げ観測の高まり等で上下するも結局はほぼ月初と同水準となった。
月初タイ10年物国債金利は3.340%あたりでオープン。
相次ぐハリケーン被害や北朝鮮リスクへの懸念による米金利の低下に連れて、バーツ金利も低下。
タイ10年物国債金利は一時2.200%あたりまで低下。
その後、ハリケーン被害が想定ほど深刻にはならないとの見方となり米金利が大幅に上昇し、バーツ金利も上昇。20日夜間に発表された米公開市場委員会(FOMC)ではバランスシート縮小開始が決定されたほか、12月利上げの可能性が示唆された。
これを受けて米金利は上昇。
一方、翌21日に発表されたタイ貿易統計で黒字回復となり、また輸出が4ヶ月連続で2ケタ増と好調であったがバーツ金利は低下。
26日夜間にイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長が講演でタカ派的発言をしたことから12月利上げ期待が高まったことや27日夜間に発表された米税制改革案が好感されたことで米金利が上昇し、バーツ金利も上昇。

また、27日にはタイ中銀金融政策委員会(MPC)が開催され、政策金利据え置きが決定されたが、コンセンサス通りであったことからマーケットへの影響はほぼ見られず。
米税制改革案の公表があった翌28日には、タイ10年物国債金利は2.385あたりまで上昇。
月末にはポジション調整もあり、2.320あたりでクローズとなった。

(10月の展望)        タイの貿易統計が再び黒字回復し、景気の堅調さが示されたことが外国人投資家をさらに惹きつけているものと思われる。
また、米金利の力強い上昇に対して投資家がまだ自信を持ち切れていないこともタイに資金流入させているものと考えられ、引き続き米金利動向がバーツ金利動向のキーとなるであろう。

そのため、今後の利上げ動向を占うため米経済指標が注視されるほか、米財政動向も注目される。
その他、地政学リスク、日本を含めた政治動向にも注意したい。

5.為替動向

(9月の回顧)          9月のドルバーツ相場は、北朝鮮リスクの増大、米国南部を襲ったハリケーン被害への懸念で前半は頭重く推移するも、後半には12月利上げ期待や米税制改革への期待の高まりから反転上昇。
月初ドルバーツは33.18でオープン。
北朝鮮が核実験を実施したことや、9日の同国建国記念日を前にミサイル発射への警戒感がドルバーツの重石となり上値重く推移。
8日には、ドルバーツは月間安値となる33.05まで低下。
33台割れが意識される中、ポジション調整と思われる買いがみられたことで下げ止まった。
前月末より複数のハリケーンが米国南部を襲っておりその経済的被害が懸念されていたが、被害額が予想ほど深刻ではないことが明らかになったことで、ドルバーツもやや上昇。

しかし、北朝鮮の再度のミサイル発射を受けて、ドルバーツは再び下落。
この間、タイ財務相が中銀に海外からの投機資金の流入増加に対応すべく政策金利の引き下げを要請したが、中銀はファンダメンタルズに基づかない政策変更は経済の安定性を損なうリスクがあると反論した。

20日夜間には米FOMCにて、かねてより議論されていたバランスシート縮小開始が決定されたほか、年内追加利上げの可能性が示唆されたが、翌21日には、タイ貿易統計が黒字を回復したことが相まってドルバーツはあまり動かず。26日イエレン米FRB議長のタカ派的発言で12月利上げ観測が強まった中、27日夜間に公表された米税制改革案が好感され、ドルバーツは一時33.49と約2ヶ月ぶりの水準まで上昇。

その後は、月末のポジション調整に押されて33.32で越月となった。
なお、27日のタイ中銀MPCでは大方の予想通り政策金利を現行の1.5%で維持が決定された。
(10月の展望)        先月前半は北朝鮮リスクやハリケーン被害への懸念がドルバーツを下押し、後半は米利上げ期待と税制改革への期待がドルバーツを持ち上げる結果となった。
米税制改革については、減税の財源が明らかにされていないことから、今後も期待が続くのか懸念が残る。
また、北朝鮮関連も米朝の舌戦は継続しそうであり予断ならない。

米政治動向、地政学リスクといった懸念はあるものの、最も注意すべきは米金融政策の動向と考えており、米経済指標を注視。また、日本でも衆院が解散・総選挙となりドル円動向がドルバーツに波及する可能性にも注意したい。

6.政治動向
プミポン前国王の葬儀が10月25日から29日に行われ、火葬が行われる26日は公休日となる。
王宮前広場で行われる葬儀には秋篠宮ご夫妻も参列する。

テレビ各局は前国王の追悼番組の放映を開始、テレビ番組および町中の映像広告なども色調を落とし、
追悼ムードが高まっている。
在タイ日本大使館は、葬儀の期間中、公共の場では節度のある服装をするよう呼び掛けている。
最高裁は9月27日、インラック前首相に対し、禁錮5年の有罪判決を言い渡した。

同日、プラユット首相は前首相が国外にいることを言及、被告不在のまま判決の言い渡しが行われた。
前首相は一貫して無罪を主張、在任時に導入していたコメを市場価格より高く買取るコメ担保融資制度に対し
ては、有益な公共政策と主張していた。
しかし、判決は前首相が国家に損害を与えた責任を認め、職務怠慢の罪にあたると判断した。

当記事は、三井住友銀行バンコク支店がとりまとめた資料を、同支店のご好意により利用させて頂いています。