タイ国経済概況(2017年11月)
タイ商務省、タイ中央銀行、国家経済社会開発庁(NESDB)から発表される諸指標に基く経済動向、タイ投資委員会(BOI)から発表される投資動向、および政治面での主要な動きを、月次まとめてお送りします。
日タイビジネスフォーラム金融委員会
1.景気動向
- タイ中央銀行(BOT)は10月31日に発表した月例経済報告にて、引き続きタイ経済が上向いているとの見方を示した。
これまでと同様に輸出および観光が成長を牽引している。特に輸出は前年同月比+13.4%(金を除くと同+8.9%)と二桁増。石油商品、ゴム製品、電子製品、自動車・同部品、コメ、砂糖とほぼすべての主要分野にて輸出額が増加しており、通年で前年比+8%を越える成長が見込まれている。国内消費は前年同月比+2.8%と緩やかなペースにて回復が続いている。
民間投資は同+0.9%、上向いたとはいえ低水準にとどまっている。インフレ率は0.86%、コア・インフレ率(CPI)は0.53%と物価上昇率は引き続き低位で推移。BOTは第3四半期(7~9月)のタイの経済成長率は4%に達した可能性があり、第2四半期を上回る成長となった様子との見解を示した。
BOTの今年の経済成長率予測は3.8%、上半期の経済成長率は3.5%であったため、BOTの予想が実現するには下半期に4.1%の経済成長が必要となっている。
- タイ工業連盟(FTI)は10月18日、9月の自動車生産台数を前年同月比+9.9%の19.0万台と発表。うち国内向け生産台数は、7.6万台で同+20.0%、輸出向けは11.5万台で同+4.2%となった。
1月から9月までの自動車生産台数は147.8万台で前年同期比+0.1%、年初から累計生産台数は前年同期比マイナスが続いていたが、プラス転換となった。
内訳は、国内向け生産台数が62.9万台で同+9.3%、輸出向けは84.9万台で同▲5.8%となっている。9月の国内新車販売台数は7.8万台で前年同月比+21.9%、引き続き好調となっている。9月の自動車輸出台数は12.1万台で同+7.2%、2ヶ月連続のプラスとなった。9月の輸出台数を仕向地別で見るとオーストラリアを含むオセアニアが同+18.8%の3.8万台となり、9ヶ月連続で最大の出荷先。オセアニアに続き、アジアが同▲9.4%の2.8万台、欧州が同+18.8%の1.7万台、北米が同+35.0%の1.5万台、中東が同+7.9%増の1.2万台、中南米が同▲29.1%の0.8万台、アフリカが同+45.4%の0.3万台となっている。
- 日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所は10月18日、タイ日系企業進出動向調査(2017年)を発表、在タイ日系企業数は5,444社となり、2014年の調査より877社増加した。
在タイ日系企業のうち、製造業は2,346社で43.1%、非製造業(農林漁業、建設は除く)は2,890社で53.1%となり、非製造業が過半数を占めた。企業数の増加は、非製造業で629社、製造業は199社となり、非製造業の進出製造業の進出を大きく上回った。
中でも卸売・小売が278社増加(2014年調査時対比+25.7%)、サービスが210社増加(同比30.6%)となっている。なお、本調査は日本法人もしくは日本人が10%以上出資している企業に対してジェトロ・バンコク事務所がヒアリング調査を行い、活動している日系企業数を確認したもの。
- 世界銀行は10月31日、世界190ヶ国・地域を対象にビジネス環境を調査した2018年版の報告書を発表、タイは26位と17年版の46位から大幅に上昇。
また、タイはこの1年間で改革により改善が見られた上位10ヶ国にも入った。評価は10項目からなるが、タイは電力供給(190ヶ国中13位)、少数投資家保護(同16位)、破綻処理(同26位)が高い評価を受けた。他のASEAN各国の順位は以下。
シンガポール(2位)、マレーシア(24位)、ブルネイ(56位)、ベトナム(68位)、インドネシア(72位)、フィリピン(113位)、カンボジア(135位)、ラオス(141位)、ミャンマー(171位)。なお、日本は前年と変わらず34位となっている。
- タイ中央銀行の発表によると2017年9月末時点の金融機関預金残高は18兆2,662億バーツ(前年同月比+4.8%)、貸金残高は16兆9,746億バーツ(同+3.2%)といずれも増加。
- (10月の回顧) 10月のバーツ金利は、米金利に追随する形で月間を通しては小幅金利上昇となった。月初タイ10年物国債金利は2.32%でオープン。良好な米経済指標で12月利上げ観測が強まり米金利が上昇したことにともないバーツ金利も上昇。
その後は、米連邦準備制度理事会(FRB)後任議長人事を巡っての思惑から米金利が低下に転じるとバーツ金利も低下。
北朝鮮リスクが警戒されバーツ金利が低下地合いとなる中、プラユット首相が来年11月に選挙を行う方針を発表したことが好感されバーツ金利は一段と低下。
その後、米消費者物価指数(CPI)が振るわず米金利低下となるとバーツ金利も追随しタイ10年物国債金利は2.215%まで低下。次期米FRB議長人事を巡る思惑から米金利が上昇に転じるとバーツ金利も上昇。
その後、米FRB後任議長人事への思惑に加えて、米税制改革法案の動向で上下しながら徐々に金利上昇。タイ10年物国債金利は2.38%まで上昇し、越月。
- (11月の展望) 足元相場では、12月米利上げはすでに織り込み済みながら、その先の利上げについては不透明感からまだ織り込まれていないものと思われる。
また、今後の米金利動向を占う上で重要となる次期米FRB議長はパウエル米FRB理事が昇格する形で指名された。パウエル米FRB理事はイエレン米FRB議長のスタンスを当面継続するものとみられるが、今後のパウエル氏の発言には注意を要する。
バーツ金利動向は米金利動向次第ながら、タイ経済が好調であることから海外からの資金流入は継続するものと考えられる。
- (10月の回顧) 10月のドルバーツ相場は、次期米FRB議長人事や米税制改革法案に加えてタイ国内でも選挙に関する報道等材料目白押しとなり33.05~33.54のレンジでの推移となった。
月初ドルバーツは、良好な米経済指標を受けて12月利上げ観測が強まったことからドル買いが優勢となり一時7月以来の水準となる33.54まで上昇。月間高値をつけた。その後、世界銀行がタイの成長率見通しを上方修正したことやタイ経済指標が良好な結果となりドルバーツの上値を押さえた。そういった中、次期米FRB議長候補が比較的ハト派との見方からドルバーツは弱含みに転じた。
北朝鮮リスクへの警戒感でドルの上値が重くなったところにプラユット首相が来年11月に総選挙を行う方針を表明したことでバーツ買いが進行。米CPIが予想を下回ったことからドルバーツは33.05まで下落し、月間安値をつけた。
その後は、米企業決算が好調で米株価が連騰となり米金利が上昇したことを受けてドルバーツも上昇に転じた。次期米FRB議長人事に関する報道や米税制法案の動向を受けてドルバーツは上下しながらも下値を固めていき、一時ドルバーツは33.31まで上昇。
しかし、月末付近にタイ財務省が今年の経済成長率見通しを従来の3.6%から3.8%に引き上げたことがバーツ買い材料とされ、33.225で越月。
- (11月の展望) 先月発表された米経済指標では、米CPIこそ振るわなかったが総じて12月利上げを否定するものはなくマーケットも12月利上げの織り込みを維持。また注目された米FRBの次期議長はパウエルFRB理事が指名された。
当面はイエレン米FRB議長の緩やかなペースでの利上げスタンスが継続されるものと考えられる。
日本の衆院選、中国共産党大会と大きなイベントも通過したが、米税制改革の行方やスペイン・カタルーニャの独立問題は決着がついていない。今後のドルバーツは、外部環境に振らされるも堅調なタイ経済を背景に上値は限定的になると思われる。
- 70年間にわたってタイの国家元首を務め、2016年10月13日に88歳で逝去したプミポン前国王が10月26日夜(日本時間27日未明)、バンコクの王宮前広場に設置された火葬施設で荼毘に付された。
火葬儀式には秋篠宮ご夫妻のほか、40ヶ国以上の国家元首や特使が参列した。プラユット首相は10月30日、国民向けのテレビ演説にてプミポン前国王葬儀の一連の儀式が終わった旨を述べ、服喪期間が10月29日で終了したと宣言。
約1年続いた服喪期間中、国家公務員は黒い服装を義務付けられていた。また、葬儀の行われた2017年10月は服喪および追悼のため、公務員以外も黒い服装を着用する人が目立ち、テレビ番組および町中の映像広告なども色調を落とし、追悼ムードが高まっていた。
当記事は、三井住友銀行バンコク支店がとりまとめた資料を、同支店のご好意により利用させて頂いています。